おもちゃの王様が語る おもちゃの昭和史 佐藤安太著/牧野武文 構成 ~夢を実現し続けた男の濃密な「昭和自伝」
本書は玩具の「タカラ」の創業者佐藤安太の評伝だが、その人生は単なる個人史ではなく「生きたおもちゃの昭和史」になっている。
佐藤は、1924年福島県沢渡村(現いわき市)に生まれた。勤労動員で郡山の工場にいたときに空襲に遭い負傷。入院中に終戦を迎え、退院すると上京し製紙会社に勤める。21歳だった。
やがて先輩に誘われて塩化ビニール加工の仕事を始める。型抜きしたビニールを空気で膨らませて人形を作るという単純な仕事だが、佐藤は天職だと直感する。新素材のビニールは、ゴムに比べて軽く耐久性があり、染色もしやすかったので、幼児向け以外のおもちゃの開発にも取り組んだ。そうして生まれた「ダッコちゃん」は、佐藤の人生とおもちゃの歴史を変えた。
最初は室内インテリアのつもりだった。だが、黒い顔に真っ赤な唇、眉毛は黄色というデザインが若い女性をひきつけた。彼女たちは腕に抱きつかせて街を歩いた。おもちゃをおしゃれアイテムとしたのだ。それが偶然テレビで放映されると、一挙にブームとなり、240万個を超える大ヒットになった。