「文学は役立つのか」論争、SNSで何度も再燃する訳 前提が「定義」されていない議論は結局すれ違う

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

この事例が教えてくれることは、前提が共有されていない文章をそのまま読んでもおそらく通じ合うことができないということです。

物事は多面体です。たくさんある面の中からどの面を選んでいるのかがわからないと、正しい・間違いの議論は成立しないのです。そもそも議論が成立していないので決着がつかず、再燃を繰り返す結果になっているのです。

ですから、私はこの記事の冒頭で前提を確認しています。それにより読者は「ああこの著者はその立場の人なのね」「この著者の前提は自分の前提と違うな」と理解します。

前提や立場が異なるのであれば、意見が異なることは自然です。どちらが正しい・間違いという議論自体、ナンセンスでしょう。

良いコミュニケーションには「定義」がある

このように、SNS上の議論は前提が欠けているから、「SNSの文章は読む価値がない」と考えているのです。

「前提を確認する」という行為は、数学だと「定義」にあたります。

数学は最初に定義をしないと始めることができない学問です。素数の性質を明らかにしたければまず素数とはどのような数かを定義しなければなりません。まず冒頭で定義する。これは極めて数学的な作法なのです。

最初に定義がされていない状態の文章は、読む価値がない。

数学的にはこのような結論になります。読む価値がないものは、読まなくていいと思うのですがいかがでしょうか。

私は常々、「ビジネスコミュニケーションは数学である」と公言しています。ビジネスで円滑にコミュニケーションをとるためには、数学的に、最初に定義をする必要があるのです。

たとえば、私は本業で研修やセミナーを開催しますが、冒頭で必ず定義を行います。具体的には数学をどの立場から扱うのかを明確にしたり、使う言葉の意味について共通認識を図るなどします。

私は前者を立場の定義、後者を言葉の定義と呼んでいますが、これをすることでようやく参加者と同じ認識と言語でコミュニケーションができます。

教育者として思うのは、まず相手の定義を確認する(まず定義をしてからコミュニケーションを始める)という感覚がなく、いきなり正しい・間違いの議論で白黒をつけたがる人があまりに多いということです。立場や言語が異なるのですから白黒つける必要などありませんし、もっと余裕のある態度でいたいものです。

SNSの例が、コミュニケーションの方法を見直すきっかけになればと思います。もちろんSNSの使い方は人それぞれで自由であり、私の考えを強要するものではありません。しかしSNSの「治安」の悪さは社会問題にもなっています。多くの人が、心地よく楽しめるものになってほしいと願っています。

深沢 真太郎 BMコンサルティング代表取締役、ビジネス数学教育家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ふかさわ しんたろう / Shintaro Fukasawa

一般社団法人日本ビジネス数学協会代表理事。ビジネス数学を提唱する人材教育のプロフェショナル。公益財団法人日本数学検定協会主催「ビジネス数学検定」1級(AAA)は日本最上位。これまでに指導した人数は、延べ7000人。「ビジネス数学」の第一人者として確固たる地位を築く。企業研修のほか学生やプロスポーツ選手などの教育研修にも登壇。数学的な人材の育成に力を入れている。著書に『「仕事」に使える数学』(ダイヤモンド社)、『数学女子智香が教える 仕事で数字を使うって、こういうことです。』(日本実業出版社)など。2018年には小説家としてデビュー作『論理ガール』(実務教育出版)を上梓。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事