紙の本をそれだけ愛してくれて、友達にまで紹介してくれる。それが評判になれば、欲しい人は増えるわけで、友達から借りてボロボロになったやつではなく、自分用に新品を買おうとなりますよね。
――長期的な目線で考えることで、結果的には、売り上げの増加にもつながると。
つねに「読者」を見ることが大切だ
菊地:先程、ショッピングモールでリサーチをしたという若手社員の事例をお話ししましたが、その他にも、読者の声に寄り添う工夫はあります。
たとえば、うちは、いくつかの中学校の修学旅行のコースのひとつになっているようで、たまに制服の中学生が社内を見学しに来るんですよ。そこでミーティングをして、いま学校ではやっていることを聞いたりしています。
中学校の『朝読』の時間で、うちの本が多く読まれてるので、東京の憧れの出版社みたいな存在になっているらしい。ネット上では、「スターツ」が「泣ける本」を表す言葉のようにもなっているようです。
――今や、「泣ける本」の代名詞のようになったわけですね、すごい……。でも、こうしたスターツ出版文庫が作ったフォーマットを真似するような会社も出てきているんじゃないですか?
菊地:他の出版社がうちで売れた作家さんに声掛けして出版することもありますが、それだけで売れるわけではありません。二番煎じはうまくいかないものです。
若い読者の気持ちがわかる編集者と作家さんが2人3脚で作り、さらにそこに他のメンバーも加わり、どんどん変化する読者の心に合わせて作品を作っているからこそ、読者のハートをつかむことができるのです。
――タイトルや表紙といった外側だけ真似てもだめ、ということですよね。スターツ出版に根付いた社内風土や、作家・編集者・読者が三位一体で本を作っていく、というシステムがあるからこそ売れている。
菊地:世の中的に本が売れない理由は、多くの出版社が読者を見ていないからだと思います。編集者は作家さんばかり見ているし、営業は書店さんばかり見ている。うちは営業も編集も読者を見ている。そこの違いだけです。読者はどんどん変化していきますが、しかし、きちんと見ていけば、売れる本は作れるのだと思います。
※※※
ただ、読者のほうを見る。それが、スターツ出版のスタンスだ。そしてその結果、その時代に即した作品が生み出されていき、「ブルーライト文芸」が生まれた。スターツ出版のスタンスは、基本的なようでいて、奥深い。
次回は、この連載のまとめとして、著者の専門とする、都市論や建築論の観点から、ブルーライト文芸が書店空間にもたらした影響について語っていく。
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