大和証券の子会社が自ら「農園経営」を行う事情 「農業×金融」で稼げる農業の実現を模索する
久枝氏は2000年に広島県でトマトの大規模温室栽培事業を立ち上げ、その後は栽培技術コンサルとして農業の事業化に関わってきた。2018年に大和証券グループが100%出資で大和フード&アグリを設立し、久枝氏を取締役として迎え入れた。SAC磐田社長には2021年に就いた。
大和フード&アグリがSAC磐田を買収してまず取り組んだのは、マーケティング面での工夫だった。
仲卸業者などを通して販売すると、ほかの商品との差別化ができずに十分な価格で販売することができない。そこで量販店開拓に自ら乗り出した。大和証券の新宿支店で営業担当の課長をしていた社員が異動し販路拡大をリードした。
その結果、1年間で20社もの新規得意先を開拓。売上の3分の1をカバーするほどになった。ブランドを明確にしたことで値上げもできるようになり、買収後1年で黒字転換したという。
農場の運営も試行の末、SAC磐田では自社で行うことにこだわる形へと落ち着いた。大和フード&アグリはかつて外部企業と連携してベビーリーフを生産する事業を行った。だが、徐々に限界も明らかになったという。
「工場長も外部に委託していたが、それではインセンティブがなく当たり前のことしかしてくれない。やはり自社の社員が実際に事業をすることが重要」。大和フード&アグリの大原庸平社長は現在のやり方に収まった背景をそう話す。
「稼げる農業」には金融機能が不可欠
先述したようにスマート農業は、一時の盛り上がりが落ち着いた後に行き詰まった。設備投資をスムーズに行う仕組みが乏しかったことが、大きな要因として指摘できる。
ローカル5Gや自動運転などの最新技術は農業の生産性向上にも有効だが、多額の設備投資を必要とする。大手企業が実験的に最新設備を導入することはできても、「儲かる農業」として事業規模を拡大するには課題も多い。
久枝氏は以前からこうした課題に関心を持ってきた。製造業で設備投資を行うように、農業でも資金調達の仕組みが不可欠だと訴える。「稼げる農業を実現するためには資金調達など金融の機能が不可欠。それなのに金融業界で農業の現場を理解している人が少ない」と話す。
そうした問題意識に共鳴したのが大和フード&アグリだった。今後、見据えるのは異業種からの農業参入を促すのに必要なリスクマネーの供給体制の整備だ。
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