別れの手紙を託し生死と向き合った音楽家の覚悟 このお手紙がお手元に届く時、僕はこの世におりません

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佐山雅弘
佐山雅弘さんのサイトのトップにある別れの手紙(筆者撮影)
故人が残したブログやSNSページ。生前に残された最後の投稿に遺族や知人、ファンが“墓参り”して何年も追悼する。なかには数万件のコメントが書き込まれている例もある。ただ、残された側からすると、故人のサイトは戸惑いの対象になることもある。
故人のサイトとどう向き合うのが正解なのか? 簡単には答えが出せない問題だが、先人の事例から何かをつかむことはできるだろう。具体的な事例を紹介しながら追っていく連載の第27回。

近づく死を見据えた手紙

昭和から平成時代に活躍したジャズピアニストの佐山雅弘さんは、2018年11月14日に胃がんによって64歳でこの世を去った。公式サイトのトップにはいまも別れの手紙が掲げられている。

<このお手紙がお手元に届く時、僕はこの世におりませんが、長きに亘ってのお付き合いにお礼を言いたくて家人に託しました。
 加山雄三とタイガースが大好きな中学生。高度成長期大阪の衛星都市尼崎に親父が構えた小~さな小売商を継ぐことに何の疑念も持たないごく普通(以下)の子供がジャズとの出会いで、楽しさこの上ない人生を送ってしまいました。
 まことに人生は出会いであります。
 「君の身体は君の食べたモノで出来ている」と言いますが、まったく同様に僕という者は僕が出会った人々で出来ているのだとしみじみ実感したことです。
 その出会いを皆様にあらためて感謝しつつ、今後益々の良き日日を祈りながらお別れをします。
 ありがとう、さようなら
 2018年11月14日 佐山雅弘>

一方で佐山さんは、同月にもゲストを招いたライブイベントを複数企画しており、数日前に体調悪化で出演を断念せざるをえない状況になるまでは自らもステージで演奏するつもりでいた。

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近づく死を見据えて今生の別れをしたためる覚悟と、それでも多くの人と関係して生き続ける覚悟。両立が難しいところを、佐山さんはいかにも自然なかたちで同居させていた。なぜそれができたのか。その背景を公式サイトに残されたブログを中心に追いかけていきたい。

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