今のニュースメディアに欠けている機能とは何か 「情報を提供するだけ」では未来はない

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松井:似た構図としては、本から一部抜粋してウェブに書いて、本の販売サイトに誘導しつつ、著者が講演する講演会を企画して、そこでもお金を取るというのがありますね。

坪田:体系的にものを考えている層がいるわけです。そういう人たちは情報をしっかりと深掘りしたい。それはお金を払ってでもやりたいわけです。そういう層と、ザッピングカルチャーで無料のものをつまみ食いしていく層がいるわけです。これから、この二極分化がもっともっと進んでいくと感じています。

わかった気にさせるというのは重要な価値

藤村 厚夫(ふじむら あつお)/スマートニュース メディア研究所フェロー、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)副理事長。法政大学経済学部卒。アスキーの書籍・雑誌編集者、日本IBMなどを経て、2000年にアットマーク・アイティを起業。合併を経てアイティメディア代表取締役会長に就任。2013年よりスマートニュース執行役員(メディア事業開発担当)を経て、同社フェローおよびメディア研究所フェロー(撮影:坪田知己)

藤村:ざっくりわかった気にさせるっていうのが、紙に印刷する新聞には可能です。いろいろな事象が(紙面に)扱われていて、ページをめくるだけで見出しが目に入って、世界がこんなふうに動いてるんだな、となんとなくわかった気になります。

わかった気になる(させる)というのは、実は非常に重要な価値だと僕は思っています。ところがウェブになることで、そうした新聞ならではの役割は希薄化してきた。なぜなら、ウェブでは無償で読めるものでも、ざくっとわかった気になる。ざくっとわからせるという役割は、新聞以外のメディアでもできるようになったからです。

となると新聞の役割は深掘りすることかということかもしれない。ところが、その領域にまだ入りきれていないというふうに僕は思っているんですね。だからインターネットの時代に新聞はどっちのほうに行くんですか?と問いたいのです。

校條:新聞はどこにポジションを取っていくのか、ということですね。確かに以前はひとつの記事の長さが800字程度というのが標準だったし、それほど長い記事はなかった。でも今、主要な新聞ではかなり長い5000字級のストーリー記事が増えています。紙にも載せていますが、デジタルなら長さの制約がありません。

藤村さんが言われるような”深掘り”の水準には達してないかもしれないですが、ザッピング的な水準よりは物事を体系的に考えるという人に合っているのではないでしょうか。そこからもっと深掘りしたいのであれば、たとえば新書がテーマごとにたくさん出ていますよね。

地方紙は別として、新聞の目指すべきポジションはそれしかないんじゃないでしょうか。ただ、その場合、これまでのような大部数は諦めるという割り切りが必要だと思います。

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