今のニュースメディアに欠けている機能とは何か 「情報を提供するだけ」では未来はない

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日経は今、有料購読者の獲得でリードしていますが、独走する時代はいつまでも続かない。第2段階はカスタマイズ情報、つまり個人に特化した情報の発信で、第3段階は「協考」になると考えています。

校條:意思決定のためのサポートについてですが、例えば日経新聞で考えたときに、株価のような個人の利害におおいに関わる情報をリアルタイムで知りたいコア読者がいるということはそのとおりだと思います。しかし、日経新聞は2002年には300万部以上売れていたし、現在も電子版を合わせて約250万部になる。これは「社会に出たら日経くらい取らなきゃだめだよ」と言われて購読を決め、軽く斜め読みをするような層がかなりの量を支えているのだと思います。コア読者に対して、幅広い経済教養を求める一般読者とでも言いましょうか。

一般読者は、意思決定と言っても、例えば国際情勢や政治のことを知っておこう、経済動向を知っておこうという次元だと思うのです。広い意味での意思決定ではあるけれども、株価の類いのような短期的な強い実利志向のニーズとは異なるものです。

広告テクノロジーの進化は止まっている

松井 正(まつい ただし)/FM栃木取締役東京支社長 高知県出身。早稲田大学第一文学部心理学専修卒。読売新聞東京本社入社。盛岡支局、電波報道部、科学部を経てメディア局。2004年から1年間、米国新聞協会(NAA、米バージニア州)客員研究員。メディア局企画開発部長、専門委員などを経て22年6月から現職。単著「超高速・常時接続ネット通信の最新常識」、共著「中国環境報告―苦悩する大地は甦るか」、「図説 日本のメディア」、「『ニュース』は生き残るか メディアビジネスの未来を探る」など(撮影:坪田知己)

松井:個人の意思決定に資するような情報を配信するのは、テクノロジー的には当然の方向だと思います。

本人にニーズを尋ねるのでなく、その人の行動のデータを取れば、かなり確実に記事のレコメンドをできる。グーグルがGoogle Discover(おすすめの記事)という、各人の行動データからその人が興味関心を持つような記事を配信していますが、そこを一度見ると、クリックしたい記事が山ほどあり、あたかも私の好きなものを徹底的に向こうが知っているかのようです。

藤村:ただし、行動の意味を深くは考えないのが、いわゆるアドテク(広告テクノロジー)の行き着いた世界です。

アドテクは深い分析をしているわけではない。どこそこのお店を検索したとか、あるいは検索キーワードとしてこれを使ったといったことをつかんで、繰り返しそのキーワードに関連した記事コンテンツを提案します。行動データの蓄積が十分な量になれば、そこから得られる解もそれなりの精度になる。複数の要素を組み合わせて高級な分析をしているわけではないので、あくまで”それなりの精度”が出ているにすぎないのだけれども、ずっとこの状態が続いている。僕は、この数年間、広告テクノロジーの進化は止まっていると思っているんです。

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