日本の従業員が「世界一やる気がない」本当の理由 やる気の低下は事実だが、それ自体は重要ではない?

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こうしてみると、日本が統計上「世界最低」というのは、従業員のやる気・熱意の絶対値が低いというよりも、職務の範囲・目標・達成期限などがあいまいで、従業員が不安・不満に感じやすいからでしょう。

では、今後はどうなるのでしょうか。いま日本企業は、政府の後押しも受けて、ジョブ型雇用への転換を進めています。ジョブ型雇用で職務が明確になれば、従業員の不安・不満が解消されると期待することができます。

一方、ジョブ型雇用とは名ばかりで、「実質的にはこれまでと何も変わらないだろう」という懐疑的な見方もあります。

ジョブ型雇用はジョブ(=ポスト)に空きが出たら採用する欠員採用が基本なので、「新卒一括採用」はなくなります。即戦力の中途採用が主体なので、「OJT」は不要です。報酬を決めて採用し、同じ職務を担当している限り報酬は同じなので、「人事評価」はほぼ不要、「定期昇給」はなくなります。

日本のジョブ型には従来の慣行が残る

「当社はすでにジョブ型雇用に移行済み」と宣言している先進企業でも、「新卒一括採用」「OJT」「人事評価」「定期昇給」を大幅縮小・廃止したというケースを耳にしません。つまり、現在進められているのは、従来の人事制度・慣行を残しつつジョブ型雇用っぽく装う、“日本式ジョブ型雇用”なのです。

“日本式ジョブ型雇用”にはメリットがあり、全否定するつもりはありません。ただ、今のやり方が大きく変わらない以上、従業員のやる気・熱意や不安・不満という問題について、大きな進展を見込めないでしょう。

以上から、日本の従業員のやる気・熱意の低さは、今後も日本の大きな問題であり続ける可能性が高いと言えます。

日沖 健 経営コンサルタント

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ひおき たけし / Takeshi Hioki

日沖コンサルティング事務所代表。1965年、愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。日本石油(現・ENEOS)で社長室、財務部、シンガポール現地法人、IR室などに勤務し、2002年より現職。著書に『変革するマネジメント』(千倉書房)、『歴史でわかる!リーダーの器』(産業能率大学出版部)など多数。

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