『独ソ戦』著者が解き明かす第2次大戦勝敗の本質 ナチスの命運分けた重点なき「バルバロッサ」作戦
第2次世界大戦でドイツ軍の運命を逆転させた「バルバロッサ」作戦。現代史家の大木毅氏は、この戦いは「重点なき作戦」であったという。敵の力の中心こそが「重点」であり、そこを正しく判断し、叩くことは戦略・作戦の立案に必須の要件である。その重要性は、たとえばウクライナ侵略戦争などが証明している。
しかしながら、「バルバロッサ作戦」では、その「重点」が決められなかった。それはなぜか。そしてそもそもヒトラーが対ソ戦の決断をしたのはいつなのか。大木毅氏の新著『勝敗の構造』(祥伝社刊)より一部を抜粋・編集してお届けする。
「人格なき人間」
戦争とは何かを追求した名著『戦争論』をものした、プロイセンの用兵思想家カール・フォン・クラウゼヴィッツは、「重点(シュヴェーアプンクト)」の概念を用いて、何が戦争の勝敗を決するファクターなのかを考察した。
クラウゼヴィッツによれば、敵のあらゆる力と活動の中心こそが重点であり、これを全力で叩かねばならない。敵の軍隊が重点であれば、それを撃滅し、党派的に分裂している国家であれば、首都が重点となるから、これを占領する。同盟国頼みの弱小国であれば、その後ろ盾となる国が派遣する軍隊が重点であるから、その主力を撃破しなければならないと、『戦争論』には記されている。
この思想はプロイセンから、同国を中心に統一されたドイツの軍隊に受け継がれた。第1次世界大戦のタンネンベルク包囲殲滅戦で大功を上げ、国民的英雄となったパウル・フォン・ヒンデンブルク元帥などは、「重点なき作戦は、人格なき人間と同じである」とまで言い切っている。
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