『独ソ戦』著者が解き明かす第2次大戦勝敗の本質 ナチスの命運分けた重点なき「バルバロッサ」作戦

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また、ロシアの地形も、ドイツ軍の前進にブレーキをかけた。道路によっては、脆弱で装甲車輛の重みに耐えらず、陥没してしまうものさえあった。ゆえに、ソ連軍主力の捕捉撃滅に不可欠の高速機動など望むべくもなかったのである。

さらに、補給の問題もクローズアップされてきた。ソ連の鉄道はヨーロッパ標準軌と軌間が異なるため、列車輸送を行うにはレールの工事が必要となるが、それには時間がかかる。そのため、前線部隊が進めば進むほど、鉄道線の補給端末との距離は遠ざかるばかりとなったのだ。この前線と鉄道端末のあいだの補給線は、自動車部隊の輸送によって維持されていたが、そうした即興的対応もしだいに困難になる。

かかるマイナス要因が累積した結果、ドイツ軍、とりわけ装甲部隊の消耗は危険な水域に達した。7月のスモレンスク包囲戦における勝利など、表面的には華々しい戦果を上げていたものの、ドイツ装甲部隊が有する稼働戦車の数は減る一方であり、攻勢能力は先細っていくばかりだったのだ。

モスクワか、南方資源地帯か

こうした状況に直面し、ヒトラーと国防軍首脳部も、ソ連軍主力を重点とし、これを国境会戦で潰滅させたのちに、ヨーロッパ・ロシアを手中に収めるとの構想が実現不可能になったことを知った。

では、これからどうすればいいのか?

ヒトラーは、8月21日、モスクワ進撃を唱えるOKHの反対を一蹴し、中央軍集団麾下きか第2装甲集団のキエフ転進を命じた。このときヒトラーは、重要なのは、クリミア半島やドニェツ工業・炭田地帯の奪取、コーカサスからのソ連軍に対する石油供給の遮断、レニングラードの孤立化だと述べている。少なくともヒトラーは、経済的目標がソ連の重点であると判断したわけだ。

ところが、南進を命じられた第2装甲集団司令官ハインツ・グデーリアン上級大将は、名うてのモスクワ重点論者だったから、ここに言葉の決闘が生起する。8月23日、中央軍集団司令部に呼び出されたグデーリアンは、そこに来訪していたハルダーから、モスクワよりもウクライナの征服を優先するというヒトラーの決定を聞かされ、猛然と反対する。グデーリアンはそのまま、ハルダーとともに、東プロイセンの総統大本営「狼の巣」に向かい、ヒトラーに異論を唱えた。

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