軍事専門家が説く、情報分析の「罠の罠」の正体 分析対象に接近すればするほど陥りやすくなる
ミラーイメージの罠
1970年代のアメリカ海軍では、仮想敵であるソ連海軍が何を目指しているのかを巡って部内論争が存在していました。
当時のソ連海軍は、それまでの主力であった潜水艦だけでなく巡洋艦や駆逐艦などの大型水上戦闘艦艇を次々と建造し、空母建造にも手をつけ始めていました。大陸国家であるソ連がどうして巨大な海軍を作ろうとしているのか。これが焦点になったのです。
アメリカ海軍主流派の意見は、「彼らは我々と同じことをしようとしているに違いない」というものでした。有事にアメリカ本土から欧州に向けて送られてくるアメリカ軍の増援をソ連は遮断しようとするに違いない。そのために洋上でアメリカ海軍主力に決戦を挑み、制海権を得ようとしているのだ、というのです。
あるいはこうして制海権を握ることにより、世界の海に潜むアメリカの弾道ミサイル搭載原潜を狩り出したり、自国の原潜が自由に航行できるようにするつもりなのだ、とも考えられました。
なぜならば、この「制海」というのはまさにアメリカ海軍のドクトリンそのものなんですね。アメリカの提督たちにとってみれば、海軍というのはそのために存在するはずだろう、ということが自明の前提とされていました。
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