軍事専門家が説く、情報分析の「罠の罠」の正体 分析対象に接近すればするほど陥りやすくなる

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これに対して海軍情報部のソ連専門家たちはまた別の解釈をしていました。ソ連の軍事ドクトリンの中には、世界の海で制海権を握ろうとする発想はない。ソ連にとっての海軍とは、あくまでも陸上の作戦を支援することに存在意義がある。

しかも、ソ連の原潜は主に自国近海の防護された海域(要塞)をパトロールする方向にシフトしている。だから、ソ連が巨大な水上戦闘艦艇を建造しているのは、この要塞海域からなるべく遠いところでアメリカ海軍を迎え撃ち、対潜部隊を接近させないようにすることが主眼にある。これがソ連専門家たちの分析でした。

アメリカ海軍の提督たちがソ連海軍を自分たちとそっくり同じ存在として、つまりミラーイメージで捉えていたのに対して、ソ連専門家たちは「彼らには彼らなりの論理があるのだ」と主張して論争になったわけです。

現在では、正しかったのはソ連専門家たちだったことがわかっており、ソ連海軍の要塞戦略ということも当たり前に言われています。しかし、海軍の主流派がこの結論を受け入れるにはかなりの時間がかかりました。ソ連海軍が独自の論理を持っているように、アメリカ海軍にだって独自の論理があるからです。

どちらもそれなりの合理性があって、どちらが正しいかは絶対的な基準で結論できない。加えて、ことはソ連の核戦略に関わる問題ですから、「我々はこう考えています」なんて当事者が教えてくれるわけでもない。

様々な情報活動の結果、やっぱりソ連海軍は要塞戦略で動いているらしいという結論が出たのは、冷戦も終わりに近づいた1980年代のことでした。

分析対象の言い分に同調してしまう

ミラーイメージの罠を避けるためには、相手がどういう論理を持っているのかを相手の立場になって把握することが有効です。

ところが、ここにはもう一つの罠が潜んでいます。分析対象の持っている世界観とか価値判断にまで踏み込んでいくと、それに同調してしまうということが起きがちなのです。

例えば、ロシアは現在の世界についてこんな不満を持っている。イスラム過激派がテロを起こすのはこういう論理に基づいているからだ。北朝鮮の立場になってみれば核を持たないと危なくてしようがない。

こういうふうに分析対象の論理に接しているうちに、「彼らの言い分は全くもっともだ」というところに行き着いてしまう人が少なくないのです。

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