懸念される"災害ごみ処理"清掃職員削減の余波 不測の事態で浮き彫りになる清掃行政のあり方

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筆者が以前ヒアリングを行った中国地方の「平成30年7月豪雨」の被災自治体では、行政改革で現業職員を削減し、数名の事務職が委託業者を管理する形で日常のごみ収集業務を行っていた。

被災後の復旧作業で、災害廃棄物収集の陣頭指揮を執っていたのは、東北地方から応援に駆け付けていた人員であった。地域の実情を把握できていないいわば「素人」が陣頭指揮を執る事態も生じている。

総務省のHPによると、石川県下の自治体でごみ収集を担当する直営の清掃職員を擁しているのは金沢市のみであり、能登半島の自治体には現場で作業を行える直営の清掃職員は存在しないと見て取れる。

石川県の自治体における清掃業務従業者数の表
石川県下の地方自治体における清掃業務従事者数(出所:総務省HP「地方公共団体定員管理関係」をもとに筆者編集)

今後、能登半島の被災自治体にて復旧が始まる段階においては、地域ブロックのみならず全国の自治体からの応援が入ると見込まれる。その際には、現場を熟知しその実情に合わせながら陣頭指揮を執る人材が存在するのかどうかが大変気がかりである。

また、災害廃棄物の処理方法について一定の知識を持ち、応援に来た人員に的確に指示を出せる人材が存在するのかも気になるところだ。

想定外の事態に対応できるかどうか

これまでは平穏な日常を前提として効率性を追求する行政改革が推進されてきた。しかし、昨今の自然災害や感染症といった想定外の事態が頻発する状況においては、想定外を想定した体制を構築していく行政改革を行うべきである。それが結局は住民生活の保護に寄与し、社会全体の効率性を高めていく。

各自治体の清掃の職場では、現場を熟知し全体を俯瞰(ふかん)できる人材、被災時には現場の状況を把握して必要な支援は何かを伝えられる人材、支援に来た人々の陣頭指揮を執る人材、を複数人確保していくかが課題となる。

今後は削る行政改革のみならず増やす行政改革を行わなければ、住民の安心・安全は守れない。

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藤井 誠一郎 立教大学コミュニティ福祉学部准教授

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ふじい せいいちろう / Seiichiro Fujii

1970年生まれ。同志社大学大学院総合政策科学研究科博士後期課程修了。博士(政策科学)。同志社大学総合政策科学研究科嘱託講師、大東文化大学法学部准教授などを経て現職。専門は地方自治、行政学、行政苦情救済。

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