「母は癌、父はうつ、子は発達障害」娘の介護の顛末 大変な状況ほど、介護する側が意識したいこと

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そして父親の気持ちが落ち着いたうえで、本当に母親の在宅での療養生活が続けられるかどうか、いま一度冷静に話し合ってみましょう。父親の“他人を家に入れることへの抵抗感”が薄らいだら、介護保険サービスの利用を。身体介助や日常生活のサポートを受けられれば、家族の負担をぐっと減らせます。

こうして外部の手を借りてみたうえで、在宅での生活を続けられるか改めて考えてみるといいと思います。

付け加えると、母親は小康状態とはいえ、がん末期であるので、症状がいつ急変してもおかしくありません。状況が変化したときの対応に不安が残る場合には、母親に相談して入院を受け入れてもらうのも1つです。

そうすることで、A子さんは子どものケアに集中し、かつ安心して両親の状況を見守ることができるのではないかと、筆者は考えます。

介護する側「自分を後回しにしない」

介護する側が病気を抱えたり、不安定な状態になったりするのは、十分にありえます。もちろん、まずはそうならないよう、できるだけストレス解消を行ったり、睡眠時間を取ったり、バランスの良い食事や適度な運動を心がけたりして、健康な心身を維持したりすることが大事です。

そのうえで、万が一心身に不調が生じたときは、それに早く気づいて対応することです。

介護する側は、つい自分は大丈夫だと過信したり、自分のことを後回しにしがちです。しかし、介護する側に負担がかかり過ぎて、心身に不調が生じてしまうと、いざという時に大切にしたい人の希望を叶えることが難しくなったり、悲しい思いをさせてしまうことも出てきます。

介護される側の希望をかなえることも大切ですが、それに応えようとするあまり、介護する側がパンクしてしまえば、どうにも回らなくなってしまうのも事実です。

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介護する側・される側だけで抱え込むのではなく、医師や看護師など、介護に関わる専門家の意見に耳を傾けていただけたら、道が開けることもあると思います。これまでも連載でお伝えしてきている通り、介護保険サービスをうまく使いながら、無理のない介護への関わり方を考えるのも大事なことです。

普段の生活や仕事も含め、介護する側の人生も大切に。自分のために自分を大切にするだけではなく、介護をしている相手のためにも、自分の健康にぜひ目を向けてほしいと思います。

(構成:ライター・松岡かすみ)

中村 明澄 向日葵クリニック院長 在宅医療専門医 緩和医療専門医 家庭医療専門医

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なかむら あすみ / Asumi Nakamura

2000年、東京女子医科大学卒業。国立病院機構東京医療センター総合内科、筑波大学附属病院総合診療科を経て、2012年8月より千葉市の在宅医療を担う向日葵ホームクリニックを継承。2017年11月より千葉県八千代市に移転し「向日葵クリニック」として新規開業。訪問看護ステーション「向日葵ナースステーション」・緩和ケアの専門施設「メディカルホームKuKuRu」を併設。病院、特別支援学校、高齢者の福祉施設などで、ミュージカルの上演をしているNPO法人キャトル・リーフも理事長として運営。近著に『在宅医が伝えたい 「幸せな最期」を過ごすために大切な21のこと』(講談社+α新書)。

 

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