さらにA子さんの子どもには発達障害があり、学校からたびたび呼び出される事態が続くなど、子育ての負担も重くのしかかっています。
両親の様子を見るために毎日、両親宅に顔を出してはいるものの、帰宅が少しでも遅くなると子どもが落ち着かなくなってしまうため、長時間の滞在はままなりません。
母親は余命宣告を受けながらも小康状態が続いており、幸いにも今のところは何とか日常生活が過ごせています。がん終末期に起こりがちな痛みもありません。
ただ、ベッドから起き上がってトイレに行くのには、介助が必要です。夜中にトイレに行くことも多く、オムツをしているものの待てずに漏らしてしまうときもあり、父親はそれが大きなストレスになっていました。
ヒステリーを起こす「うつ」の父親
父親は、調子が良いと問題なく生活が送れるのですが、ひとたび不安定になるとヒステリーを起こし、周囲が身の危険を感じるほどの状態になります。こうした父親の不安定な様子が、A子さんの心配をさらに膨らませていました。
これ以上、夫に介護してもらうのは難しいと考えた私は、母親に「ご家族が大変そうにも見えますが、このまま家で過ごすより、入院のほうが安心ということはないですか?」と水を向けたこともありました。
ところが母親は、その状況を踏まえても「家がいい」と言います。それまでの入院生活に懲りていた経緯もあり、夫がヒステリー状態になってどれだけ騒ぎ立てようが、「もう入院はしたくない」と固く心に決めているようでした。
最大の問題は、こうした状況にもかかわらず、両親宅には訪問介護が入っていないことです。聞けば、「家に見知らぬ誰かが来るのが嫌」という父親の意向で、母親の要介護認定は受けているものの、身体介助や日常生活のサポートをしてもらうヘルパーは頼んでいません。それによって父親の介護負担が増しているのですが、自分の病気の影響もあり、他人が家に入るのをどうしても受け入れられないようでした。
私たち訪問診療と訪問看護は、母親の在宅療養を支えるために、週に一度だけ入ることを許されましたが、父親と落ち着いてコミュニケーションを取るのは難しい状態です。
母親の主な介護者は夫である父親ですが、介護者としての役割を十分に果たせているとはいえません。そこで近くに住むA子さんが、できる範囲で両親の生活をサポートしていたわけですが、自分の子どもと親のダブルケアとなり、それも限界に来ていました。
母親の訪問診療で伺った際、A子さんが私に自分が置かれた状況がいかに大変で参っているか、必死で訴える姿を見て、「事態は深刻だ」と受け止めました。
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