スタバの「フラペチーノ」に潜んでいる驚きの真実 「うちはコーヒーの会社」育ての親も反対だった

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ここに見られるのは、初期スタバのような「本物志向」を徹底させようとしたシュルツの姿である。本場イタリアのカフェバーに感銘を受け、それをそのままアメリカに持ってこようという彼の意気込みがよくわかる。

しかし、そのようなこだわりが「顧客の要望」とずれていることをシュルツは徐々に理解していく。

「こうした配慮はシアトルでは通用しないことが、次第にわかってきた。お客からオペラがうるさいという苦情が出るようになった。蝶ネクタイも適切ではない。急がない客は椅子を要求する。[…]われわれは、お客のニーズに合わせる必要性を徐々に受け入れた」(H・シュルツ『スターバックス成功物語』、p.115-116)

店側の「こだわり」だけでは店を維持できない

ここには「フラペチーノ」の際に「顧客は常に正しい」と喝破したシュルツの姿が顕著に表れている。

店側の「こだわり」だけでは、店を維持することはできない。そこに「こだわり」があったとしても、それを顧客との絶えざるコミュニケーションの中で、少しずつ変えていく必要があるというのを彼は悟ったのである。

スターバックス成功物語
『スターバックス成功物語』(筆者撮影)

そこからシュルツはあくまでも「顧客」がどのように考えているのかを徹底してその店づくりに生かすようにしていく。ここに、フラペチーノで事業を拡大していくシュルツ、そしてスタバの姿が顕著に表れてくる。

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『ドンキにはなぜペンギンがいるのか 』(集英社新書)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

このような考えのもと、シュルツは新生スタバの店舗を拡大し、ついには全世界的なグローバルチェーンへと変えていく。

そして、その中でフラペチーノに代表されるような「矛盾」が生まれていくのである。

スタバの矛盾は、「顧客が何を望んでいるのか」と、徹底的に向き合ったゆえの産物なのだーー。

そして次回は、この視点を踏まえつつ、スタバがその店づくりの重要なテーマとしている「サードプレイス」という考え方について考えてみよう。

その結果見えてくるのは、スタバにおける「矛盾」が、スタバを利用する人の間に独特な「コミュニティ意識」を作り出している、ということである。これは一体、どういうことか。

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谷頭 和希 チェーンストア研究家・ライター

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たにがしら・かずき / Kazuki Tanigashira

チェーンストア研究家・ライター。1997年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業、早稲田大学教育学術院国語教育専攻修士課程修了。「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾 第三期」に参加し宇川直宏賞を受賞。著作に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』 (集英社新書)、『ブックオフから考える 「なんとなく」から生まれた文化のインフラ』(青弓社)がある。テレビ・動画出演は『ABEMA Prime』『めざまし8』など。

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