EUは、最新AIシステムの開発企業の扱いをめぐって議論が割れている状況でも「AI法」の立法を推し進めてきた。最終合意案では、リスクの高い使用を制限する措置や、土台となっているシステムが機能する仕組みについて透明性要件が設けられる可能性がある。
しかし、法案が可決されたとしても最低18カ月間は施行されない見込みであり、その間にAIが新たな劇的進化を遂げる可能性は十分に考えられる。法律がどのように施行されるかも不透明だ。
「このテクノロジーを規制できるかどうかについては、まだ結論が出ていない」。ブリュッセルにあるシンクタンク「ヨーロッパ政策研究センター」の上級研究員アンドレア・レンダは、「このEUの法案は、前時代的なものに終わるおそれがある」と指摘する。
当の開発者もAIの潜在力を理解できていない
こうしたルール不在は、AI企業に空白をもたらした。グーグル、メタ、マイクロソフト、ChatGPTの開発企業オープンAIが、先進的なAIシステムを開発し、そこから利益を得ようと競い合うなか、そうした企業の行動を縛るものは自主規制しかない状態が続いている。
開発を加速させる自由をもたらす拘束力のない行動規範を望む多くの企業は、提起されている規制をより緩いものにしようとロビー活動を展開。自身に有利な条件を引き出そうと、各国の政府を互いに競い合わせている。
当局者の間では、各国政府は団結した行動を早急に起こさないと、AI開発企業とその技術革新からさらに取り残されてしまうおそれがあると警告する声がある。
「そうしたシステムの開発者ですら、誰一人として、何ができるようになるのかわかっていない」。11月に28カ国が参加したAI安全サミットを主催したイギリスでリシ・スナク首相の顧問を務めるマット・クリフォードは、「リスクに対処し、リスクを軽減する能力が政府にあるのかというリアルな問題の存在が、事態の緊急性を生み出している」と語る。