さらに、アメリカのほとんどの州では、法令により個人的なアドバイスはマネジャーの職権として認められていない。
数年前にソルトレークシティのコンピューターメーカーで起きた事例だが、組み立てラインの作業員が2回に1回は遅刻しており、40〜50分遅れることもあった。
さらに仕事の精度も低い状況が数週間続いたため、上司がその従業員と話したところ、従業員は謝罪して言った。
「託児所の開始時刻がよく遅れていて、子どもを入り口に放置して仕事に来るわけにいかないのです」。施設の状況に不安があるため一日中、子どもが心配で、業務に悪影響が出ている、とのことだった。
上司は言った。「いい方法があるわ。私の子どもの通っている託児所を使えばいいでしょう。開始が1時間早いのよ。これで遅刻もなくなるし、業務中に心配しなくてよくなるわ。そうしなさいよ」。
部下は上司に言われたとおりにした。詳細は控えるが、新しく通い始めた託児所で、部下の子どもに悲劇が起こった。部下は弁護士を立てて会社を訴え、勝訴したのだった。
部下の話には耳を傾けるべきだが
裁判所は「上司には、部下に個人的なアドバイスをする資格はない」と判決を下した。この上司は、人事部など適切な従業員サポートの部署に部下をつなぐべきだった。託児所の変更は、部下個人の選択である。
もちろん、部下の話には耳を傾けるべきだし、思いやりは大切だ。部下全員にそれぞれ仕事外の生活があり、みんな困難をやりくりしながら仕事に来ていることは忘れずにいよう。
問題を抱えた部下と率直な話し合いをする際には、事前に方針を決めておくことが大事だ。あくまで目指すところは、業務上の問題の解決である。私的な問題を解決するのは部下自身であることを強調し、支援プログラムにつなぐようにしよう。
部下の話はもちろん親身になって傾聴すべきだが、部下が業務を放置して相談ばかりに時間を費やす状況はまずい。部下が2時間も仕事そっちのけでお茶を飲みつつ個人的な問題をだらだら喋っていても止めないのは、「よい聴き手」ではない。