イーブイは月に約130軒のゴミ屋敷の片付けを請け負っている。その中で二見氏がネグレクトだと断言できた家庭はたった1軒だけだったという。シングルマザーの女性から見積りの依頼を受け、夜の7時に現場を訪れたときのことだった。インターホンを押すと、出てきたのは小学校低学年の子どもだった。
「お母さんいる?」
「いない」
「どこ行ったん?」
「わかんない」
依頼者に電話をするもつながらない。そんな状況で見積りをするわけにもいかないので、しばらく子どもと話していると、大人が4人いきなり部屋に入ってきた。
「誰ですか?」
互いに警戒したが、話を聞くと子どもが通っている学校の教師だという。母親の育児放棄を学校も把握しており、教師たちはときどきご飯を届けに来ていると言った。それから2時間後、依頼者から二見氏に電話が入った。
「そんなん勝手に部屋入って見積もりしたらいいやん。それで、なんぼかかるか言えば済む話やん」
クライアントとはいえ、二見氏は我慢できずに反論した。
「ならもうええわ。おたくには頼まん」
依頼者はそう言うと、電話を切ってしまった。こうなってしまった以上、勝手に部屋を片付けることなどできない。二見氏は子どもを置いて家を出ることしかできなかった。
片付けを機に前を向きたい
今回依頼をしてきた母親は経済的理由から費用を一括で支払うことが不可能だった。だがイーブイは、母親の子どもへの切実な想いを汲み、月1万円の分割払いで片付けをすることに決めた。
いるモノといらないモノを母親に聞きながら仕分け、荷物をどんどん外へ運び出していく。作業スタッフは全部で7人、約2時間半で片付けは完了した。空っぽになった部屋で母親が話す。
「荷物がなくなったときは自分が情けなくて、なんてことをしてきたんだろうと。ですが、これから頑張りたいってすごく前向きになれました。全部クリアにして、イチから始めたい」
現在3人はこの家から引っ越し、別の場所で新たな生活を送っている。部屋がきれいになったことを機に、2人の子どもは学校へ行くようになったそうだ。
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