建築の発想のためには、たくさんのスケッチを描きます。自分の頭の中にあるエキサイティングな思考を、紙の上で形にするのです。模型を作ることや、その場に行って地域の雰囲気を肌で感じることからも発想は生まれます。また、学校だったら教育システムの違いが建築のあり方を変えることもあります。
1985年に完成した青山のスパイラルの場合、下着メーカーのワコールからの依頼で、自社の商品を売る場所ではなく、文化の発信地として考えてほしいということでした。劇場があり、展示スペースがあり、カフェがあり、クラブもある。このようなハイブリッドな場所です。
このような建築を考えていたときに、20世紀が生んだモダンアートの断片を、白い柱や、円錐といったフォルムを取り入れた外観で表現しようという発想が生まれました。
「人間とは何か」考えてきた
細長い奥行きのある空間で、どのように人を誘導しようかということにも工夫をしています。虫が明るい所に引き寄せられていくように、人間にも同じ性質があります。そこで、いちばん奥に明るい自然光が差し込むようにしました。2階の窓際には、青山通りを見ながら座って休めるいすもあります。生活には「群れる」と「一人でいる」という両方の行為があります。しかし、都市には豊かな環境で一人で過ごせるパブリックスペースが少なくなっています。その意味でも大事な場所ですので、階段の幅を広くとり、ゆっくりと上がれるようにしました。人が効率よく上がることを目的とした駅の階段などとは違った設計なのです。
建築家は、最終的に人間と向き合う職業です。私は建築を通じて「人間とは何か」ということを考えてきました。
建築を造る際には、施主やスタッフなど関係者の利害を調整しながら、自分の理想とする建築を造っていかなければなりません。このような人間同士の付き合いは、非常に重要です。それと同時に大事なことは、人間が求める建築とは何かということです。私は50年以上、いろいろな国や地域で建築を造ってきました。そこで感じたのは、人間が持っている本質的な欲求は、実は変わらないのではないかということです。文化とか時代とか個人差はあるかもしれませんが、突き詰めていくと、どのような空間、形態を喜ぶかというのは、皆同じなんですね。
このような人間の欲求や願望を観察し、自分が造るべき建築を形にする。そんなことを考えながら、建築を造り続けているのです。
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