陰謀論や「ディープ・ステイト」が流布する理由 ヤニス・バルファキスも指摘する「封建制」到来

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

コトキンの失望と関連させるなら、トランプと対峙してきた元下院議長のナンシー・ペロシのサンフランシスコの選挙区(カリフォルニア第11下院選挙区)もそうであるが、カリフォルニア州の民主党の有力政治家が地盤としている選挙区には、裕福な有権者の多い地域が少なくない。

コトキンのカリフォルニア州に限れば、同州の民主党が労働者のための党ではなく、ベイエリアに住む大卒エリートたちのほうを向いているのではないかとコトキンが疑うのもわかる。

そのコトキンは、『デイリー・ビースト』のようなリベラルなニュースサイトにも寄稿を続けている一方、「プロジェクト2025」の賛同組織であり、親トランプの牙城のひとつであるクレアモント研究所のサイト『ザ・アメリカン・マインド』に今年、現在のカリフォルニア州知事であるギャビン・ニューサムを痛烈に批判する原稿を送っている。

ポストバイデンのひとりとも目されることがあるニューサムは、コトキンからみれば、新しい封建制に奉仕する、みせかけの注目株でしかないのである。

近年のリベラルの傾向に批判的な立場

『新しい封建制がやってくる』のなかでも、いくつかの章でとくに垣間見られるように、コトキンは、マイノリティの権利やソーシャル・ジャスティスを重視する近年のリベラルのなかの傾向に、かなり批判的な立場を堅持している。

批判的人種理論にたいする猛烈な批判者であるクリストファー・ルフォも寄稿する、保守系シンクタンクであるマンハッタン研究所のサイトの『シティ・ジャーナル』にも頻繁に寄稿しているコトキンは、その意味で現在、相対的に保守に傾斜していると言える。かれのこうした側面をどう評価するのかについては読者によって判断のわかれるところだろう。

ただ、コトキンの政治的変遷にかかわる側面を仮に差し引いたとしても、左派のバルファキスの近著との類似性に触れたように、本書からは読み手の立場の違いを問わず、得るものが多々あるはずである。

階級の固定化による新しい封建制の出現という事態を前にして、どのようにしたら社会の流動性を取り戻し、やせ細った中産階級の厚みを取り戻していくことができるのか。

解決のための特効薬はまったくないとはいえ、閉塞した状況を一気に壊してくれる者の出現を夢想することだけは、避けておいたほうがいいはずである。

井上 弘貴 神戸大学大学院国際文化学研究科 教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

いのうえ ひろたか / Hirotaka Inoue

1973年、東京都生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程満期退学。博士(政治学)。自治体非正規職員、早稲田大学政治経済学術院助教、テネシー大学歴史学部訪問研究員などを経て、現職。専門は、政治理論、公共政策論、アメリカ政治思想史。著書に『アメリカ保守主義の思想史』(青土社)、『ジョン・デューイとアメリカの責任』(木鐸社)、訳書に『ユニオンジャックに黒はない――人種と国民をめぐる文化政治』(共訳、月曜社)などがある。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事