陰謀論や「ディープ・ステイト」が流布する理由 ヤニス・バルファキスも指摘する「封建制」到来

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すくなくとも共和党支持者のなかで、トランプの人気は衰えることを知らない。この背景のひとつには、政府や巨大企業がアメリカの民衆の思いや利益に反したことをしているという不満や怒りが伏在していると言える。

陰謀論とひもづいた表現である「ディープ・ステイト」は、日本でもいまや書籍やインターネットで普通に見かける言葉になっている。一般の人びとの手の届かないところにいる少数の人間たちによってこの世の中の政治、経済、社会は牛耳られているという考えを深めているひとは、アメリカに限らず世界のあちこちで増えている。

そのような考えがもたらす閉塞感は、既存の仕組みを一気に破壊し、いけ好かない偉そうな連中をぎゃふんと言わせてくれる強い人物を待望する空気をますます生み出している。

ギグワーカーの大半は都市の下層労働者

先ごろ翻訳刊行されたジョエル・コトキンの『新しい封建制がやってくる――グローバル中流階級への警告』は、世界のさまざまな国や地域でのデータや実例に基づいて、多くの人びとが感じている直感的な考えが決して思い過ごしでないことを明らかにし、自由主義的な資本主義のもとで生み出されてきた社会の流動性と中産階級の厚みは今や過去のものとなり、階級の固定化によってもたらされる新しい封建制と言うべき社会状況が世界的に現われつつあることを指摘している。

コトキンが本書で、この新しい封建制の出現をハイテク封建制、あるいは(ガスパール・ケーニヒの言葉を援用して)デジタル封建制と表現しているように、現在の社会格差の増大の根底にあるのは、新たなテクノロジーの出現と、そのようなテクノロジーを基盤とするテックビジネスの台頭、そして利益がますます一部の人間たちによって独占されると同時に、従来の中産階級をやせ細らせ、多くの人びとを窮乏の淵へと追いやっている今日の政治経済の仕組みである。

コトキンが指摘するように、スマホを介して仕事を受注するギグワーカーの大半は、本業のかたわらの空いた時間で小遣いを稼ぎ、暮らしに潤いやちょっとした贅沢をつけ加えようとする人びとではなく、そのような仕事を自分のなりわいとして、かつかつの生活を余儀なくされている都市の下層労働者にほかならない。

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