イオン、「直営は諦めない」衣料品改革次の一手 まず売り場を変えて、従業員の意識を変える

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今回のモデルでは専門店ごとに責任者をおき、どの商品をどれくらい陳列するか、どこに何を置くかなどの決定権を現場に持たせている。セルフレジを導入して単純作業を減らしつつ、「急に寒くなってきたから、マネキンに着せている羽織り物を変えよう」といった、マニュアル以外の仕事にも対応しやすい体制にした。

専門店の客が共通して利用できるセルフレジを導入(記者撮影)

これまでも男性向け、女性向けなど大きな商品カテゴリーごとに数値責任はあったが、売り場が平場の中で点々としており、管理しにくかった。今回のモデルでは、専門店単位で数値責任を持たせることで、責任の範囲を明確化にした。「自分の城」を可視化して、モチベーションを高める狙いだ。

実は森脇氏はいわゆる食品畑で、衣料品のプロではない。しかし店長をはじめとして、営業現場での長い経験がある。「現場を巻き込む意識は、営業で培われたものだと思う」と話す。

「直営売り場がなくなったら、イオンじゃない」

店舗あたりの投資額については非開示だが、「壁を何枚も立てて、床も売り場ごとに別の色で張り替えている。決して安くすむ投資ではない」(イオンリテールの担当者)。

現時点で同様の専門店モデルを取り入れているのはイオンリテールが運営する全国約350店のうち、船橋と浦和美園のほか、マイナーチェンジモデルである9月開業の武蔵狭山(埼玉県)と11月開業の古川橋(大阪府)の4店舗にとどまる。だが、来春までに追加で2店舗へ導入が決まっており、今後は導入ペースも上げていく方針だ。

加えて、これからは商品にも手を加えていく。改革チームの別の担当者は、「各売り場を訪れるお客様像が明確になり、よりターゲットを絞りこんだ商品開発ができるようになる。目下開発に取り組んでいるところで、2024年の秋冬くらいから、より明確な軸をもった商品を投入できるだろう」と話す。イオンに衣料品を卸している取引先からも「売り場ごとに客層の違いが明確になり、提案しやすくなる」という声が上がっている。

シニア向け衣料品を独立させた。専門店の名称は「otonagi」(オトナギ)(記者撮影)

GMSの衣料品は縮小が続くが、それでも森脇氏は「衣料品は粗利率も高く、重要な商材。直営売り場をなくして、テナントに衣料品販売を依存するというのは、それはもうイオンじゃない」と強調する。

直営売り場の課題は衣料品だけではない。「ワンストップショッピングを実現するため」(イオンの吉田昭夫社長)、来年以降はGMSの3階部分にあたる「住居余暇」部門のテコ入れも本格的に進めていく方針だ。

ただ館全体の収益力底上げには、1階の食品売り場から、まず2階部分の衣料品売り場への送客を強化することが不可欠となる。「(今回の改革を)全国に広げるために、成果を出し続けなければならない。今後は商品の改革や、接客など従業員のスキルアップ、また季節が変わっても売り場のレベルを維持し続けることが必要になる」(森脇氏)。

今度こそイオンはGMS改革を成し遂げられるか。まずは衣料品改革で明確な成果を上げることが求められる。

冨永 望 東洋経済 記者

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とみなが のぞむ / Nozomu Tominaga

小売業界を担当。大学時代はゼミに入らず、地元密着型の居酒屋と食堂のアルバイトに精を出す。好きな物はパクチーと芋焼酎。

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