「ホモ・デウス」支配の「新しい封建制」を防ぐ方法 社会的流動性の回復が守る自由主義的資本主義

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第Ⅳ部は、ヨーマン(独立自営農民)。今日の欧米では上への社会移動を意味する「社会的上昇」が危殆に瀕している。アメリカなど高所得国における次世代の若者たちは今後、不動産を所有し、中流階級並みの生活を送ることが難しくなるとみられる(第10章)。

中流階級の困窮化を引き継ぐミレニアル世代は、資産の蓄積もままならず「途方に暮れる世代(ロスト・ジェネレーション)」となる。新しい不動産封建制が到来し、ピケティの言うように「相続財産が復活する」。中流階級は「デジタル封建制」のもとでデジタル農奴に堕していく(第11章)。

テック業界や金融業界を牛耳る寡頭支配層は、「バラモン左翼」と気脈を通じて強引に「進歩主義的」政策を推し進め、特に環境問題をめぐってヨーマンと対立する。「グリーン資本主義」は上流階級が下の者たちを抑圧するための新たな計略である。気候温暖化対策の代償を中流・労働者階級に押しつけるのである(第12章)。

新しい農奴

第Ⅴ部は、農奴。中国の出稼ぎ労働者は、社会的上昇の希望はなく、所得も減少し、農奴(隷従)への道に突き進んでいる。アメリカをはじめ事実上すべての高所得国で社会的上昇への期待は萎んでいる。今後の技術革新は、労働者階級から社会的上昇の機会をさらに奪うことになると予想される(第13章)。

今日の労働者階級は「プロレタリアート」というよりも「プレカリアート」と呼ぶのがふさわしい。彼らは日雇いや単発の仕事を請け負うギグワーカーとして非正規で働き、酷使されたあげく、使い物にならなくなれば消耗部品のように廃棄される。

一方、先進国では、左翼のジェントリ化(上流階級化、富裕層化)とともに、インテリ左翼と労働者階級の長年の同盟が解消され、裏切られた感を抱く労働者は極左へ、あるいは極右へと走る(第14章)。

「農民反乱小史」は、世界の主な農民反乱の概説である。翻って、現代欧米の農民反乱は、グローバリゼーションと貧困国からの移民の大量受け入れが背景にある。

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