「ホモ・デウス」支配の「新しい封建制」を防ぐ方法 社会的流動性の回復が守る自由主義的資本主義

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コトキンの著作は過去に何冊か日本語に翻訳されているが、『新しい封建制がやってくる』は、2007年の『都市から見る世界史』(庭田よう子訳、ランダムハウス講談社)以来久々の邦訳となる。以下、『新しい封建制がやってくる』の内容を章ごとに順を追って紹介したい。

封建制が帰ってきた

第Ⅰ部は、本書の総論にあたる。コトキンはまず、「新しい封建制」を「現在の脱工業経済のもとで、富が少数者の手にかつてないほど集中する」アメリカその他の国で出現しつつある「新しいかたちの貴族制」であると規定する。そこでは社会の階層化が進み、社会的上昇の機会は狭まりつつある。新しいヒエラルヒーを知的に支えているのが、思想的リーダーやオピニオンメーカーたちに代表される「有識者」である(第1章)。

中世の社会モデルは「祈る人、戦う人、働く人」からなる。原書では、フランス人画家ミシェル・エナンが1789年に描いた3人の男のイラストが表紙を飾っている。腰を深くかがめて鍬を杖代わりに突いて歩く農夫の老人(働く人)。その背にまたがる聖職者(祈る人)と貴族の騎士(戦う人)。今日、この聖職者と貴族を頂点とする中世の相互依存共同体を、自由主義的資本主義の社会モデルよりも高く評価する見方が出てきている(第2章)。

自由主義的資本主義は、かつて封建制秩序の崩壊を促し、分厚い中流階級の台頭をもたらした。しかし今日、この欧米型資本主義モデルが中流階級の衰退と社会的格差の拡大を招いている。そこでアンチテーゼとして台頭してきたのが、資本主義と権威主義を融合させて経済発展を遂げてきた中国である(第3章)。

第Ⅱ部は、寡頭支配層。ひと昔前のテック企業は、創造的破壊によって独占状態を打破し、非独占企業が下からのし上がれることを自ら実証した。彼らは「草の根イノベーション」のお手本として称讃された。しかし現在のスタートアップ企業は、すでに膨大な資金と才能を蓄えている少数の巨大テック企業(テックオリガルヒ)によって芽を摘まれている(第4章)。

次ページ「テックオリガルヒ」という寡頭支配層
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