「ホモ・デウス」支配の「新しい封建制」を防ぐ方法 社会的流動性の回復が守る自由主義的資本主義
テックオリガルヒは、オルダス・ハクスリーが『すばらしい新世界』で描いた「科学的カースト制度」(科学的操作に基づく階級制度)をつくり上げようとしている。
中流・労働者階級はますます隅に追いやられるが、追い込まれた彼らが歯向かう事態を回避するため、テックオリガルヒは福祉国家的な政策(労働者の所得保障など)に積極的な姿勢を示している。
コトキンはこのモデルを「寡頭制社会主義」と呼んでいる。労働者は、まともに財産を築けず、農奴のように日々を送り、生活の基本的必要は補助金でまかなうこととなる(第5章)。
コトキンの地元カリフォルニア州は新しい封建制の未来の縮図といえる。黄金州は過去15年間、テック産業を中心とするベイエリアが州経済を牽引してきたが、「隔離されたイノベーション・エリア」で上流階級は繁栄し、中流階級は衰退し、下流階級は貧窮に陥り、その状態が固定化している(第6章)。
「バラモン左翼」の有識者
第Ⅲ部は、有識者。近代に入ると、大学教授、コンサルタント、弁護士、科学者、公共知識人などの「有識者」が、知的権威としてかつての聖職者の文化的役割を担うようになった。アカデミズム、ジャーナリズム、エンタテインメントなどの世界は左傾化し、文化的権力はトマ・ピケティのいう「バラモン左翼」に握られている(第7章)。
かつて自由な思想探究の場とみなされていた大学は、いまや異端の考えが攻撃される場としての中世モデルに戻りつつある。現在の大学は、オープンマインドな知識人を育成する場ではなくなり、他者の意見にたいして不寛容になる傾向が強い。また学生も、自国の文化や歴史に関する知識から切り離され、自由主義文化を成り立たせてきたものに無知なまま社会に送り出される。その意味で、大学は自由主義文化の衰退に手を貸している(第8章)。
昨今、若者の宗教離れがしばしば指摘されるが、実際には、社会正義を叫ぶソーシャル・ジャスティス教、環境保護を唱えるグリーン教、テクノロジーによる不死の生命を求めるトランスヒューマニズムという新しい支配階級の宗教が浸透しつつある(第9章)。
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