「ホモ・デウス」支配の「新しい封建制」を防ぐ方法 社会的流動性の回復が守る自由主義的資本主義

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第Ⅶ部は、本書の結論部である。寡頭支配層と有識者層をやりたい放題にさせておくと、彼らは独占資本、侵入技術、思想統制によってディストピアの未来をつくり出す可能性がある。テクノロジー支配により、一般大衆は骨抜き状態にされ、ユヴァル・ノア・ハラリのいう「ホモ・デウス」に支配される社会が到来するかもしれない(第19章)。

人間の素朴な懸念に発する行き過ぎた独善は、社会に破壊的影響を及ぼし、階級的反発を招くことがある。これは特に環境問題についていえる。フランスのマクロン政権が気候変動対策の一環として打ち出した燃料税の引き上げが「黄色いベスト」運動につながったのは一つの例である。温室効果ガス排出量削減アプローチは、「問題が複雑になればなるほど、国民の意見を無視したエリート主導の解決策が必要になる」というロベルト・ミヘルスの「寡頭制の鉄則」を示すものである(第20章)。

欧米で起こりはじめた現代版「農民反乱」は支配階級の力に挑むための首尾一貫した行動計画を欠く。新しい封建制に抵抗するカギは、バリントン・ムーアのいう「多数の政治的に活発な都市住民階級」が握っている。すべては、第三身分が「関与する市民」として自らの立場を堂々と主張する決意を奮い起こすことができるかどうかにかかっている(第21章)。

社会的流動性の回復を

経済格差の拡大については指摘されて久しいが、問題は格差それ自体よりも、格差が固定化し、社会的上昇の機会が構造的に奪われていることにある。ロシア生まれでアメリカに亡命した社会学者ピティリム・ソローキンが着目した概念に「社会的流動性(social mobility)」というものがある。この社会的流動性には水平軸も垂直軸もあるが、とくに個人が社会の垂直軸を上に移動することを「社会的(地位の)上昇」と呼ぶ。

本書のなかで、コトキンは終始一貫して社会的上昇の機会が閉ざされていることを指摘している。常識的に考えて、階級間移動が滞れば、社会の活力は削がれ、虐げられた人びとのあいだに鬱憤や不満、怨嗟や嫉妬が渦巻き、そうした感情の爆発から社会が無秩序(disorder)に陥ることは避けがたい。

新しい封建制を押しとどめ、押し戻せるかどうか、コトキンが信を置く西洋の自由主義的資本主義を守れるかどうかは、ひとえにこの社会的流動性の回復にかかっているといえるだろう。

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