「ホモ・デウス」支配の「新しい封建制」を防ぐ方法 社会的流動性の回復が守る自由主義的資本主義
最後に、海外における本書への反響をいくつか見ておこう。オンライン誌「IM—1776」の書評「新しい封建制か、新しい階級闘争か――ジョエル・コトキンとマイケル・リンドの目からみた私たちの未来」(2020年12月8日)は、コトキンの描く階級構造の実態をよりきめ細かく捉えている点を評価している。
リンドの『新しい階級闘争』における「上流階級(Overclass)」に相当する階級を、コトキンは「寡頭支配層(Oligarchy)」と「有識者(Clerisy)」とに分け、さらにその下位に位置する人びとについても「ヨーマン階級(Yeomanry)」と「農奴(Serfs)」とに分けて、現代社会の階級分化と階級間対立をより詳細に分析している。加えて、文化・価値観の面からの考察は、コトキンのほうがより深掘りがなされているとも指摘されている。
ラッセル・カーク・センターのウェブサイトに掲載された書評「ユートピアの終わりなき脅威」(2020年11月8日)は、第Ⅵ部「新しい封建制の地理学」を本書の白眉と位置づけ、「この章は、新しい封建制という彼のヴィジョンを、巧みな思考実験から今日の大都市生活を描くドキュメンタリー写真へと移し替えるうえで、最も説得力のあるもの」としている。
保守派言論誌『アメリカン・コンサーヴァティヴ』の書評「封建制の静かな復活」(2020年7月15日)は、「コトキンが打ち鳴らす警鐘は、彼のような古参の進歩主義者だからこそ、より勇気があり信頼に足るものであるが、テックオリガルヒの利益とウォーキズムの福音を軸とする左派の再編は、内部からの反発なしには進まないことを示している」と指摘する。さらに「コトキンは右派の読者さえも獲得している。ちなみに、本書の出版元はEncounter Booksである」という。同社は、保守派知識人の本を出している出版社である。
党派性とは無縁の分析
コトキン本人は「保守派」知識人ではない。しかし、ここに紹介した本書の概要や反響からわかるように、少なくとも『新しい封建制がやってくる』は、右だ左だ、保守だリベラルだといった党派性とは無縁のものである。そのダイナミックさと繊細さを兼ね備えたコトキンの分析は、読者の一人ひとりに「新しい封建制」に立ち向かうための貴重な示唆を与えてくれるにちがいない。
なお本書の原注は、東洋経済新報社の同書ウェブサイト内に記載されているURLからダウンロードできるようになっている。
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