「21世紀の貴族制」を正当化する現代の「聖職者」 シリコンバレーで進む「新しい封建制」の惨状
階級格差が固定化して停滞する現代都市
欧米の優れた研究者が一般向けに書いた著作を読むたびに思うのであるが、どうして、我が国にはこのようなタイプの作品がかくも少ないのであろうか。
古今東西の哲学や歴史の深い教養に根を下ろしつつ、一流の社会理論に、膨大な実証研究やデータによる裏付けを用意し、重層的な論理で読者に迫りながら、巧みなレトリックによって飽きさせず、さらに説得力を増して訴えかけてくる。
しかし、上から見下ろすような傲慢な姿勢ではなく、読者と共に行動しようとする。そういう啓蒙の伝統が西洋のアカデミズムには、まだ残っているようである。本書でもまた、同じ感慨にとらわれて、思わず嘆息してしまった。
著者のジョエル・コトキンは都市研究の専門家であるが、都市とは時代を映し出す鏡のようなものなのかもしれない。ルイス・マンフォード、ジェイン・ジェイコブズ、より最近では、サスキア・サッセンなど、都市の変遷という視角から文明の本質に光を当てようとする研究は、いずれも総合的でダイナミックである。
特に、アメリカの都市研究には、優れたものが多い。ヨーロッパのような中世都市の伝統を持たず、共同体すら存在していない地に近代都市を建設していったアメリカにおいて、都市の持つ意味は格別に重大なものであった。アメリカにおける都市研究とは、社会学そのものだったのであろう。
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