「21世紀の貴族制」を正当化する現代の「聖職者」 シリコンバレーで進む「新しい封建制」の惨状

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本書も、そういう都市研究の伝統に連なるものである。特に本書第Ⅵ部は、グローバルシティやゲーティッドシティなど、現代の都市の生態を分析しており、彼の都市研究家としての本領が発揮されている。その現代の都市が映し出していたのは、コトキンが「新しい封建制」と呼ぶ、階級格差が固定化して停滞する現代社会の未来であった。

2013年にトマ・ピケティが『21世紀の資本』を発表して以降、社会格差の問題をめぐる議論が活発に行われ、おびただしい研究が行われてきた。しかし、それから10年経って、事態は改善するどころか、悪化の一途をたどっている。

第2次世界大戦後に定着し、冷戦終結によって強化された、資本主義と民主主義に対する信念、さらに言えば、進歩そのものに対する信念が地に堕ちた。それどころか、歴史は、進歩とは逆のコースを歩み始めているのではないかという疑念すら持ち上がっている。

最近も、アメリカの保守派の論客であるマイケル・リンドが、『新しい階級闘争─大都市エリートから民主主義を守る』を世に問うた。第2次世界大戦後の資本主義の繁栄と格差の是正によって克服されたかに思われた階級闘争が、中産階級の没落によって、再びよみがえったというのである。

コトキンに至っては、歴史はもっと退行して、ついに「新しい封建制」を現出するまでに逆戻りしたと論じている。格差の拡大は確かに問題ではあるが、それを「封建制」と言うのは大げさだと思うかもしれない。しかし、本書を読めば、そのような認識が甘かったことに気付くであろう。

「新しい封建制」の最先端は「シリコンバレー」

コトキンは、カリフォルニア州に住んでいるが、カリフォルニア州こそ、貧富の格差が最も激しい地域の一つであり、「新しい封建制」の未来を先取りしている。とりわけ、最先端のハイテク産業の中心地として、日本のエリートたちが羨望してやまないシリコンバレーは、「新しい封建制」においても最先端の地であった。

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