「性別役割」を縛る価値観が、見落としてきた歴史 『家父長制の起源』など書評4点

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ブックレビュー『今週の4冊』

 

[Book Review 今週のラインナップ]

・『家父長制の起源 男たちはいかにして支配者になったのか』

・『少数派の横暴 民主主義はいかにして奪われるか』

・『面白くて眠れなくなる江戸思想』

・『マッチング理論とマーケットデザイン』

『家父長制の起源 男たちはいかにして支配者になったのか』アンジェラ・サイニー 著
『家父長制の起源 男たちはいかにして支配者になったのか』アンジェラ・サイニー 著/道本美穂 訳(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)

評者・医療社会学者 渡部沙織

人間社会における家父長制の確立は、近代国家の成立と切り離せない。17世紀の政治思想家ロバート・フィルマーは『家父長論』で、国家は家族のようなもので王は父親(家父長)、臣民は子どもであるとし、神から与えられた王権を絶対化した。

家父長制に基づく価値規範は数世紀を経てなお影響力を持ち、19世紀に階級間格差を是正しようとしたマルクスでさえ、男女間の社会的地位の格差は生物学的差異に起因するという考えに縛られた。

性別役割を縛る価値観が見落としてきた別の側面を示す

著者は科学ジャーナリストで、インド系英国人。科学研究における人種差別や性差別に関する著書は、多くの受賞歴がある。本作は、社会科学のみならず考古学や類人猿研究、人類学や先住民族研究など多くの知見を参照し、時に現地に赴き、いつ頃から/なぜ人が家父長制に束縛されるようになったのかを解き明かす。

近代化期の欧米には、「人は、自然に支配された原始的状態から、理性的な文明に移行する」と進歩史観に基づく啓蒙主義が根付いていた。19世紀に入り、女性に男性同様の権利を与えない理由が問われるようになると、西欧の知識人は「原始的」な人々の社会を調べることでジェンダー関係の起源も判明すると考えた。しかし調査の結果は期待していたものとは異なっていた。

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