「21世紀の貴族制」を正当化する現代の「聖職者」 シリコンバレーで進む「新しい封建制」の惨状

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1980年代のシリコンバレーは、平等主義の手本とされ、労働者階級や中産階級の人びとが持ち家を所有するようになる「カリフォルニア・ドリーム」を実現していた地であった。しかし、シリコンバレーがソフトウェア産業などのハイテク分野で世界的に優位に立つようになるや否や、階級間格差が拡大していき、今ではシリコンバレーの住民の3割近くが、公的・私的な経済援助に依存しているという。過去30年間で、雇用の中心が製造業からソフトウェア産業へと移行したことが原因の一つと考えられる。

この間、製造業の雇用が大きく失われたが、ソフトウェア産業は製造業ほど労働者を必要としないうえに、一時滞在ビザを持つ非市民を大量に雇用するので、市民の雇用は増えないのである。結局、巨大なテック企業は少数の億万長者を生み出しただけで、そこで働く人びとの多くは、低賃金の請負契約でサービス業に従事する労働者や、いわゆる「ギグワーカー」である。彼らの多くは、トレーラーハウスで野営生活を送るホームレスであり、シリコンバレーのホームレス野営地は全米最大級だという。しかも、このシリコンバレーにおける階級間格差は固定化し、いわゆる社会的流動性は著しく低下しているというのである。

近年、我が国でも「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が叫ばれているが、これが「新しい封建制」へのトランスフォーメーションになるのだとしたら、皮肉としか言いようがない。デジタル庁は、今すぐにでも、シリコンバレーの現地視察に行って、「新しい封建制」の実態を学ぶべきであろう。

さらに、最近では、DXに続いて、「GX(グリーントランスフォーメーション)」が提唱されるようになっているが、これもまた「新しい封建制」へのトランスフォーメーションになりそうである。

「グリーン宗教」が現代人の精神を支配する

中世の封建時代では、宗教が人びとの精神を支配していたが、コトキンの診断によれば、「新しい封建制」において宗教の役割を果たすのは、環境保護主義だというのである。「伝統宗教が衰退しつつあるなか、環境保護主義は新しい時代の宗教のようなものになりつつある。キリスト教は、神に喜ばれる生き方や身の処し方の指針を示したが、環境保護運動は、人びとをより自然と調和した生活に導こうとするものである」。

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