英雄「ナポレオン」没200年の今、猛批判される訳 奴隷制復活、有色人種の隷属は許されないが…
最近のフランス国内のいくつかの世論調査によると、「フランスの歴史上最も誇れる英雄」のトップはジャンヌ・ダルクでも、ドゴール将軍でもなく、ナポレオン・ボナパルト(1世)だという。今年はセントヘレナ島に幽閉され、1821年5月5日に51歳で他界してから200年になる。そのため、フランス各地でイベントが企画されている。
ナポレオンは君主制を打倒した大革命後に登場した皇帝だ。イギリスやオーストリア、ロシアなど君主制の国が自分の地位を危ぶみ、フランス封じ込めに動く中、それらの国々を跳ね除け、近代戦争の軍隊の礎を築いた人物として知られる。生涯戦績は38戦35勝と圧倒的な強さだ。
ナポレオンの近代的戦術は今も世界各地の士官学校の教材となっており、特に敵の動き始めた「動的」状態に勝機を見出す戦術は有名だ。戦争だけでなく、世界のビジネススクールでも、机上の戦略ではなく、物事を進行させながら機会を捉える戦い方が、競争の激化するビジネス界で有効だという理由で教えられている。
戦争以外でのナポレオンの最大の功績は、革命が目指した理念を法的に体系化したフランス民法法典(ナポレオン法典)を書いたことにある。ナポレオンは、ただ権力を振るう皇帝ではなかった。ナポレオン法典は過去の封建制を終わらせ、自由、平等、人権を尊重するフランスを築く基礎になっただけでなく、日本を含め、世界各地の近代市民社会の法の規範ともなり、フランス人が自画自賛するゆえんとなっている。
活発化する「キャンセルカルチャー」
ところが、フランスでは現在、ナポレオン没後200年を手放しで祝えない雰囲気が漂っている。
欧米ではこの1年間、奴隷制に関与しながら英雄視される歴史上の人物の像を破壊する運動が繰り返された。いわゆるキャンセルカルチャー(本来はコールアウト・カルチャー)の運動が活発化し、21世紀の価値観に沿わない主張をしたり、行動したりした人物を英雄の座から引きずり下ろす運動が繰り返されている。
実はナポレオンもその運動のやり玉にあげられているのだ。ナポレオンは奴隷制を復活させて有色人種を隷属させ、女性の社会的地位を男性の下に位置付けたためだ。その2つがある限り、英雄としての資格はないという主張がキャンセルカルチャーの運動をする人々からなされ、フランス国民や政府を困惑させている。
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