英雄「ナポレオン」没200年の今、猛批判される訳 奴隷制復活、有色人種の隷属は許されないが…

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奴隷制復活だけでなく、女性の社会的地位を男性の下に位置付けたことへの批判も根強い。

ナポレオンが定めた民法では、妻と子供に対する家長の権力は絶対的であり、妻は夫に従わなければならないと定められている。さらに1810年のナポレオン民法の下では、夫が自宅で妻の不貞行為に遭遇した場合、妻を殺害したとしても罪に問われないと定められていた。

ナポレオン自身、生涯に2度結婚したが、そのほかに少なくとも3人以上の愛人がいたとされる。男性中心社会であったことは確かで、そもそも革命後の「人権宣言」には女性の権利が含まれていなかった。ナポレオンの民法が原因かどうかはわからないが、婦人参政権法案が採択されたのは1945年4月と欧米主要国の中では最も遅かった。

自由、平等、友愛をうたう大革命で、女性はほとんどの政策意思決定に関わっていなかった。カトリックの教えでは家父長制度が当然とされ、女性聖職者は今でも認められていない。フランスの歴史に深く関わってきたとされるフリーメイソンも男性の秘密結社だ。筆者のフリーメイソンの友人は「女性は政治に向いていない」と言い切っている。

当時の社会慣習からすれば当然といえるもの

ナポレオンの定めた民法での妻の夫への絶対従属は、イスラム教の教えにも似ているが、当時の社会慣習からすれば、当然ともいえるものだった。

ナポレオン民法は当時、女性の従属的地位を決定的なものにした。そこから女性が社会的、政治的に平等な地位が与えられるまでに100年以上の年を要した。

1970年代以降、フランスでのフェミニズム運動が世界的に知られるようになった背景に、ナポレオンの存在があると主張するフェミニズム活動家は少なくない。フェニミズム運動家もまた、ナポレオンを称賛することを認めない勢力として、没後200年のイベントに注文をつけている。

しかし、フランスはヒステリックなキャンセルカルチャーに加わるつもりはないようだ。

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