「かつての水素基本戦略では、水素の技術を確立し、世界に先駆けて国内水素市場をつくりあげることを念頭に置いて策定。他方、世界の水素市場は2050年までに2.5兆ドル/年の収益と、3000万人の雇用創出が予測されることから、国内市場のみならず、海外市場の取り組みを念頭に置いた戦略の改定が必要」
“かつての水素基本戦略”である2017年の施策や、それ以前の水素関連政策を見返してみると、実証から段階的に家庭用燃料電池のエネファームとトヨタ「MIRAI」等の燃料電池自動車(FCEV)の普及を拡大するといった、“社会受容性をじっくりと吟味する、社会実装まで余裕を持った理想論”というイメージが改めて浮かび上がる。
そのため、エネファームもFCEVも水素インフラの普及についても、あくまでも努力目標にとどめていた。
関係各省庁や自治体が、水素に関連する各種補助金等を用意したとはいえ、規制をともなうような普及のための強制力はなかった。
こうした状況が2020年代に入り、“一変した”のだ。
今回、改定された水素基本戦略も、「国内での利活用」のさらなる拡大を前提としたものであることは変わらない。しかし、そこからは「エネルギー/経済安全保障対策」と「国際競争力強化」を急務とする「待ったなしの緊急事態」といった雰囲気を感じるのだ。
「すでにここまで…」と驚くヨーロッパ事情
その背景にはさまざまな事情があり、複雑に絡み合っている。
最も大きな要因は、ロシアのウクライナ侵攻による、ヨーロッパのエネルギーシフトだ。ヨーロッパでは今、エネルギー源を、天然ガスから水素へと急速にシフトしている。欧州連合として、またヨーロッパ各国や各地域における水素需要の取り込み方は、凄まじいものがある。
風力発電や太陽光発電等の再生可能エネルギーに由来する「グリーン水素」の地産地消のみならず、化石燃料由来で発生したCO2を地中に埋め、再利用するCCS/CCUS(回収・貯留・利用)により実質的なカーボンニュートラルとする「ブルー水素」を、世界中から“かき集めている”といった状況にあるのだ。
そうした実態をまとめた資料をごく最近、ある日系自動車関連企業が社内で共有したところ「すでにここまでの規模になっているとは……」と、驚きの声が社内各所から上がったという。ヨーロッパの水素シフトは、壮大かつ急速に進展しているのだ。
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