エネルギー専門家が語る、日本の水素戦略の危うさ 発電や自動車分野での利用は失敗の可能性大

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水素の利用のあり方について答えるマイケル・リーブライク氏(撮影:尾形文繁)
日本政府は今年2月、「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」(GX基本方針)を閣議決定した。国による20兆円規模の「GX経済移行債」発行を通じ、今後10年間に民間を中心として150兆円を超える脱炭素関連の投資を見込む。GX基本方針では、水素エネルギーをさまざまな産業分野で利用し、脱炭素化を進めることが、柱の1つになっている。
しかし、水素の商業利用はハードルが高く、導入方法を誤ると膨大なビジネスリスクが発生するとの見方もある。世界的に著名なエネルギーアナリストのマイケル・リーブライク氏(Liebreich Associates〈リーブライク・アソシエイツ〉会長兼最高経営責任者〈CEO〉)に、水素エネルギーの活用のあり方や日本の水素戦略への評価についてインタビューした。


――水素エネルギーの可能性についてはさまざまな見方がありますが、どのような分野が有望で利活用を進めていくべきだとお考えですか。

脱炭素を実現するためにも、製造段階で二酸化炭素(CO2)フリーのクリーンな水素には明らかに世界的レベルで必要性がある。現在、水素の主な用途は肥料と石油化学分野だが、脱炭素化を実現するうえで、ほかの方法では実現が困難である分野において、クリーンな水素が必要になる。具体的には、船舶や航空機の燃料、製鉄、長期間の貯蔵分野などが該当する。

他方で、水素は物理的な性質上、非常に扱いが難しく、ほかに代替手段のある陸上輸送や暖房などでの使用には適していない。将来、水素の価格が安くなったとしても、こうした分野での実用化はきわめて難しいだろう。

水素はエネルギー効率が悪い

――物理的な性質上、実用化が難しいというのはどういうことでしょうか。

第1に、水素は作る段階から非常にエネルギー効率が悪い。すなわち、コストが高い。加えて、水素は非常にかさばる。つまり、容積当たりのエネルギー密度が非常に低い。そのため、長距離輸送に向いていない。

水素が液体になるのはセ氏マイナス253度以下の場合だ。これは、液化天然ガス(LNG)の同マイナス162度よりも温度がずっと低い。そのため、水素の液化プロセスはエネルギー集約型であり、そのためにエネルギーの40~45%が使われてしまう。

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