「天皇」林野vs「王子」中野、セゾン投信巡る愛憎劇 なぜ60歳会長は81歳会長に解任されたのか?

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業界内でもHCアセットマネジメントの森本紀行社長のように、中野氏をブログで応援、「業界全体で中野氏を応援しなければならない」と、公然と支援する経営者も出てきた。

7月27日(木)夜には、「中野晴啓さんに感謝して応援する会」が兜町で開催。オンラインも含め、定員100人に達するほど、多くの業界関係者が集まった。「感謝して応援する会」は、9月14日(木)に関西編が神戸(兵庫県)でも開かれた。中野氏の第二の人生、そして次の攻勢に向けて、いい景気付けになったに違いない。

今改めて、林野氏と中野氏の衝突を振り返ると、感情的なもつれに加え、いずれかの時点で2人の決裂は避けられなかったのがわかる。

セゾン投信のサイトでは、中野会長が退任した株主総会の6月28日(水)当日、公式サイトを更新。先行した退任報道を受けて顧客の中に、「経営体制や運用不安への不安などをお感じになられ(中略)、長期投資の営みを止めてしまったお客さまが一部いらっしゃる」ことを認めた。しかしその一方、①顧客本位の経営理念、②主力の3つのファンド、③直販中心の販売経路などについて、いずれも従来と変わらないことを強調。引き続きファンドを持ち続けることを投資家に訴えたのである。

実際に「報道があった6月こそ、資金の流入は鈍ったが、プラスは維持。それも7月から通常に戻った」(園部社長)という。

特に両者が対立したのは販売方針だ。親会社の意向が反映されがちな大手証券やメガバンク系の運用会社と違い、セゾン投信は3本のファンド「セゾン・グローバルバランスファンド」「セゾン資産形成の達人ファンド」「セゾン共創日本ファンド」を、自らが直販することにこだわった。ただ現実には中野時代から、すでにネット証券などへも販路は広げている。

むしろ大株主のクレディセゾンとしては、システム面を中心に、3500万人いるセゾンカードの会員をもっとセゾン投信に取り込むような政策を進めてほしい、とかねて促していた。今やネット証券では、若い世代を軸にクレジットカードで投信を積み立てる「クレカ積立」がブームになっており、それに伴ってポイント還元をあてにする”ポイ活”ユーザーなども少なくないからからだ。

ところが現状、セゾンカードを持っている顧客は、クレカ積立で投信を積み立てることができない。腰の重かったセゾン投信も遅ればせながらシステム投資に踏み切った結果、ようやく2024年1月からクレカ積立を含め、口座開設など一連の手続きオンラインで完結できるようになる見込みだ。

「カードで口座を」は自分の仕事ではない

セゾン投信設立後の2007年、師匠的存在だった澤上氏との「直販クラブ勉強会」でマイクを握る中野氏。まだ40代前半で若かった(撮影:尾形文繁)

一方、周囲からは、「中野氏の講演を聞きに来る客は同じ顔ぶれが多い。新規の人は少なくなった」(セゾン投信幹部)との声も漏れるようになっていた。

従来のやり方にこだわり、クレディセゾン側からややもすると時代遅れと指摘されていた中野氏だが、反論はあった。「『とにかくカードで口座を作ってください。そうすれば1000ポイントあげます』は僕らの仕事じゃない。積極的ではなかったが、やらないとはいってない。僕らは(運用会社という)製造業者なんだから」(中野氏)。

確かに、クリック1つで開設・解約できるような今風の客は、中野氏が顔を突き合わせてきたようなロイヤリティの高い”太客”とは、相通じないものなのかもしれない。クレディセゾンにとっては、競合する楽天カードを扱う楽天証券をセゾン投信が販売先に選んだのも、面白くなかった。

加えて、大株主のクレディセゾンや現経営陣から見れば、会長でありながら経営に深く関与せず、講演で飛び回る中野氏には、コーポレート・ガバナンス(企業統治)の面で不満もあったようだ。忙しい中野氏が社内を把握し切れず、現場で摩擦が起こったこともなくはなかった。

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