「天皇」林野vs「王子」中野、セゾン投信巡る愛憎劇 なぜ60歳会長は81歳会長に解任されたのか?

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騒動の発端は4月5日(水)11時過ぎ。

中野氏が大株主のクレディセゾン(保有比率60%、残り40%は日本郵便)の林野宏会長兼CEO(81)から、サンシャイン60ビル52階のCEO執務室に呼び出され、セゾン投信会長を退任するよう告げられたことだった。林野氏といえば、クレディセゾンの”天皇”ともいえる権力者である。個人的に作成された非公式の議事録には、以下のやり取りが記されている(一部を抜粋。読みやすいよう補足してある)。

「今日はあなたに伝えなければならないことがある。セゾン投信の会長を退任してほしい。

(セゾン投信の運用資産残高は6000億円だが)もうすぐ5兆円にするんだ。あなたが16年間やってきた全国回って集めるやり方はもう通用しない。15万口座といったって、セゾンカードの3500万口座に比べるまでもなく、失敗だったんだよ。

これからは証券や銀行とも組んで、大々的にビジネスを拡大させていく。これまでのやり方を変えられない人間はダメなんだ。あなたには変えられないのは、ずっと見てきて明らかだ」

そう伝えた後、林野氏は中野氏に、セゾン文化財団副理事長のポストを用意してある旨を告げた。次の理事長含みの副理事長である。

セゾン文化財団と言えば、林野氏も尊敬し、セゾングループ代表だった故・堤清二氏(2013年没)が設立した財団である。そのトップに就くには、当然、堤家の了承を得なければならない。財団理事長につけば報酬が大きく減ることを考え、別にセゾン投信から差額を補填し、会長当時と同じ年収1700万円程度の水準を出す条件まで提示したという。その代わり、セゾン投信では経営から外れ、従来のように全国を講演する伝道師の役割をこなすよう求められた。話し合いの時間は15分ほどだった。

メディアにあふれた「積立王子」への同情

その後5月のゴールデンウィークから中旬にかけて、林野氏と、さらにセゾン投信の園部鷹博社長から、電話やSNSで中野氏に3度意思確認を求めたが、中野氏が明確に返答することはなかったようだ。結果的に退任は黙認のような形となった。長く顧客本位の長期投資を説き、投資家から「積立王子」と呼ばれてきた中野氏のプライドは、大きく傷ついただろう。

以降、中野氏は金融庁の元長官2人、さわかみ投信創業者の澤上篤人氏など、金融界の有力者たちの元を回っていた。余談だが、中野氏には金融庁からの信任も厚かった。

「セゾン投信、中野会長が退任 経営路線の対立で更迭か」━━。

共同通信のスクープが躍ったのは、6月1日(木)のことだ。前日、5月31日(水)のセゾン投信の取締役会で、会長退任の人事が決定されたことを受けての報道だった。結論は覆ることなく、前述通り、同月28日(水)の定時株主総会で退任が決まった。さらには30日(金)付で内定していた投資信託協会の副会長職の続投も反故になった。

夏にかけては、新聞から雑誌、WEBを含め、怒涛のような「中野氏退任」関連の記事が世にあふれる。全国紙の編集委員や著名なファイナンシャルプランナーをはじめ、メディアや資産運用業界に中野氏のシンパは多い。中野氏は記者会見こそ開かなかったものの、事あるごとに単独インタビューに応じていったのである。世の風潮はクビになった中野氏への同情と、”斬った”クレディセゾンへのバッシングの一色になった。

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