「数字とファクト」で経営する社長が残念な理由 一流の経営者はなぜナプキンに図を描くのか

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ちなみに、彼らの描いた図が、ナプキンの裏に描ける程度のものだったことは、大変示唆に富みます。ナプキンの裏には長い文章をダラダラとは書けません。経営において大切なのは情報量ではないということです。

ファクトや数字からなる膨大な資料よりも、よりよい経営を考える上で必要なのは、ナプキンの裏に描く程度の図。成功のためのメカニズムやモデル、ネットワークといった「勝ちパターン」は、ちょっとした図を描くことで手に入ることがあるのです。

図を描いて経営を考えることのメリット

図を使いながら考えると、思考の「見える化」ができ、論理の抜け漏れが見えてきます。

それに図は、頭の中でイメージしやすく、いつでもどこでも頭の中で引っ張り出してきて、粘ちっこく考えることも可能になります。

また、図を描くと、モノゴトのビッグ・ピクチャー(全体像)や、論理の関係性や、そこに作用するダイナミズムが浮き彫りになります。だから図を「ぐっ」とにらんでいると、現象の裏にある本質や、そこから導き出される未来に気付くこともあります。

もちろん図は、一人で考えるときだけでなく、複数の人と議論する際にも威力を発揮します。みんなでホワイトボードを囲んで議論すれば、議論そのものが「見える化」され、腹落ちする共通認識をつくったり、新しい発想を得ることにもつながります。

さらに図を描くことで、長期的なメリットを享受することもできます。「これはすごくいい図だなぁ」と思ったものを「モジュール化」して手元に蓄積できるからです。そんな図のストックを増やしていけば、新しい問題に直面したときに、アナロジーを働かせることができます。

最近ではビジネスへの影響因子として、社会貢献や環境、コンプライアンス、さらには地政学的な要素などが加わりました。考えなければならないことの増殖は止まりません。

ますます正しい答えが見えにくくなっています。それでもビジネスの世界では、迅速な意思決定を日々していかなければならない。我々はそんな矛盾に直面しています。

それゆえ私は、ますます「図で考える」アプローチが重要になってくると考えています。表層的なことにとらわれず、本質的なメカニズムを見据えないと、根本的な解決策やアイデアに近づくことはできないからです。

平井 孝志 筑波大学大学院ビジネスサイエンス系教授

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ひらい たかし / Takashi Hirai

東京大学教養学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。マサチューセッツ工科大学(MIT)MBA。早稲田大学より博士(学術)。ベイン・アンド・カンパニー、デル(法人マーケティング・ディレクター)、スターバックス(経営企画部門長)、ローランド・ベルガー(執行役員シニアパートナー)などを経て現職。コンサルタント時代には、電機、消費財、自動車など幅広いクライアントにおいて、全社戦略、事業戦略、新規事業開発の立案および実施を支援。現在は、経営戦略、ロジカル・シンキングなどの企業研修も手掛ける。早稲田大学経営管理研究科客員教授、キトー社外取締役、三井倉庫ホールディングス社外取締役。著書は『本質思考』他多数。

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