国家権力も超える力を持つ「巨大IT」の"別の顔" 「グーグル、アップル、メタ、アマゾン」vs.国家

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インターネットは確かに、個人に力を与えた。しかし、それはIT企業が用意した巨大な手のひらの上で、にすぎない。そして今、巨大ITこそが国家も報道機関も寄せつけない、「第五の権力」として君臨している。

歴史上、類を見ない巨大企業に対し、一国家では立ち向かえないと、近年は国家が連帯して包囲網を築く動きも出ている。「超国家」ともいうべき巨大ITと国家が繰り広げるパワーゲーム。実は私たちは今、その渦中にいる。この本を読めば、そのことを理解していただけると思う。

AIでも主導権を握るのは巨大IT

そして──巨大ITは多くの顔を使い分けている。新型iPhoneや新サービスの華々しい発表。そこで見る彼らの顔は世界最先端の洗練されたテクノロジー企業だ。

『国家は巨大ITに勝てるのか』(新潮新書)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

だが、それは数多くある彼らの顔の1つにすぎない。彼らは消費者にはいつも慈愛の表情で応じるが、企業には時に残酷な表情をみせる。自らの領地にはライバル企業を寄せつけない高い壁を築き、貪欲に金を稼ぐ。優れた弁護士やロビイストを雇い、刃向かう者はたたき潰す。

2022年末、チャットGPTの登場で突如沸き起こったAIブーム。AIでも主導権を握るのは巨大ITであり、国家による規制をめぐって政府への働きかけを強めている。彼らはアメリカ資本主義の申し子だ。つまるところ、彼らを突き動かすのはビジネス拡大の野心であり、社会的な問題も損得勘定で判断しているように思える。

彼らが邪悪だとは思わないし、安易な巨大IT批判に与するつもりもない。ただ、何ごとにも光と影があり、光が強いほど影も濃くなる。便利なサービスの裏で本当は何が起きているのか、巨大ITの「正体」と、知られざる国家の攻防を明るみに出したい。

小林 泰明 読売新聞記者

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こばやし やすあき / Yasuaki Kobayashi

1977年生まれ。エネルギー専門紙記者を経て、2005年、読売新聞社入社。2015年~2016年、米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)客員研究員。2019年からニューヨーク特派員、2022年に帰国。東京本社経済部所属。著書に『死刑のための殺人』など。

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