トー横の若者蝕む「市販薬乱用」知られざる実情 生きづらさを抱えた子供が手を出してしまう

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嶋根さんが代表者を務めた研究「薬物乱用・依存状況の実態把握と薬物依存症者の社会復帰に向けた支援に関する研究」では、精神科医療施設を受診した市販薬の薬物依存症患者数の割合が、2012年から2022年の間に約7倍も増加していることもわかった(以下の図)。

さらに、10代の依存患者の使用薬物の推移を見ると、2014年の調査では危険ドラッグが48%ともっとも多かったが、その後、徐々に市販薬が増えていき、2020年の調査では市販薬が56.4%になっている。

危険ドラッグと市販薬は「使用しても捕まらない薬物」という共通項がある。嶋根さんはこう話す。

「かつては危険ドラッグも合法的に使える『脱法ドラッグ』として社会問題化しました。2014年に危険ドラッグの所持や使用が指定薬物として禁止されて以降、この問題は沈静化し、新たな問題として拡大したのが、市販薬の乱用です。両者には『乱用すること自体は違法ではないから』という共通心理があるのかもしれません」

高校生の60人に1人は市販薬乱用の経験

一般の高校生を対象とした調査(2021年9月から2022年3月のコロナ禍に実施)でも、全体では1.6%が「過去1年の間に市販薬を乱用した経験がある」と答えた。男性に比べて女性の割合が高く、また学年が上がるにつれて増加していることもわかった。

市販薬の乱用経験のある高校生は、約60人に1人、つまり2クラスに1人ぐらいの割合で存在することになる。嶋根さんは言う。

「市販薬の乱用問題を抱えた子どもたちは、全国どの高校にいても不思議ではないことを意味しています。市販薬の乱用経験率は、違法薬物の中で最も乱用されている大麻の約10倍に相当し、市販薬の乱用問題は、違法薬物よりも広がっている可能性があり、深刻です」

市販薬は本来なら、医療機関にかかるほどではない日常的な病気や症状を治すために使われるものだ。使用回数や量が決まっており、それは添付文書に書かれている。

しかし、乱用をもたらす薬では、決められた量を超えて摂取することで、含まれる成分の作用が増強されたり、覚醒作用が生じたりする。その結果、「気持ちよくなる」「パフォーマンスがあがる」「気分が変わる」といった精神状態をもたらす。それを求めて乱用を繰り返すようになり、やがて依存に陥っていく。

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