「時価総額2兆円」エムスリーの子会社がステマ 「法人向けは対象外」10月開始ステマ規制の欠陥

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そもそも、エムスリーキャリアがステマをしていた産業医紹介サービスとは、企業などの法人に対して、医者を産業医として紹介するというものだ。

厚生労働省は、50人以上の労働者がいる企業などの法人に対し、産業医を選任して労働者の健康管理に当たらせることを義務付けている。産業医は、契約先の職場を巡視し、医学的見地から職場環境が適切なものになるように指導する。健康診断で問題があった社員のフォロー、長時間労働者や休職者との面談、社員の健康相談、ストレスチェックなどを行う。

企業などの法人は、自社に合った良質な産業医を選ぶ必要があるが、それは容易なことではない。そのため、法人が求める条件に合う産業医を選んでマッチングさせるという、産業医の紹介サービスには高い需要がある。

ランキングには、評価項目として費用、導入実績、登録産業医の数、付帯サービスの充実度などが載せられ、一見すると客観「風」である。サイトにはコンセプトとして「当サイトでは付帯サービスに関しても着目し、産業医サービスを多角的に比較・厳選して情報を掲載しております」などとも記されていた。

「産業医サービス比較.com」のサイトに掲載されていた「コンセプト」では、産業医選びの重要性や難しさを強調したうえで、閲覧者の選択の助けになる厳選情報を提供しているかのように記載されていた(筆者が保存していたスクリーンショット)

しかし、その中立を装ったランキングが、広告料で決まっていた。直接的に欺かれた法人の中には、中小も含まれる。何より、産業医は多くの労働者が勤務先を通じて関わりのあるものだ。法規制うんぬんの前に許されるべきではない(なお、公正取引員会の関係者によると独占禁止法違反の「ぎまん的顧客誘引」にあたるおそれはある)。

法人向けサービスでもステマ規制は必要

今回のエムスリーキャリアの問題では関係者からの確かな証言があった。加えて、東洋経済の指摘を受けたエムスリーは信用が重要な医療系のサービス業者であり、かつ、機関投資家からもガバナンスを厳しく問われる東証プライム上場企業であったことから、迅速に非を認めて対応したとみられる。

ただし、これはまれなケースだ。インターネット上では比較サイトや紹介サイトがあふれている。だが、それが何らかの合理性のある評価によるものなのか、広告料によるものなのかは、外部からははっきり判断することは難しい。

10月以降、一般消費者向けのステマが規制されることが、どこまで実効性を持つかはまだわからない。まして対象外となる法人向けは野放し状態が続く。

法人向けのサービスや商品でも、ステマが利用者の判断に大きな影響力を与えているのは事実だ。そうでなければ、エムスリーキャリアなどの企業が、広告料を支払ってランキングの掲載枠を取るはずがない。広告であることを隠して、おすすめランキングの形をとっているのも、こうした誘導に効果があるからにほかならない。

エムスリーキャリアと競合する前出のA社によると、産業医サービス比較.comのサイトが消えて以降、サービスの利用を検討する企業からのアポイントが2倍に増えたという。これまではそれだけ、ステマのサイトによって顧客を奪われていたということだろう。

法人向けサービスや商品のステマに対しても、発覚した場合には厳しい行政処分を課すことを規制として明確化し、抑止力にすべきではないか。あらゆる商品やサービスがネットを通じて取引される時代に、「景表法では、一般消費者以外は保護の対象外」などと言っている場合ではない。公益を守るためのルール整備を怠る政府にも、大きな責任がある。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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