「埼玉限定のいちご」が高級市場に乗り出した背景 フルーツ生産者を育成するコーチの技【中編】
石部さんの最初の訪問からわずか1週間後には、銀座千疋屋の店舗にいちごを発送する輸送のテストを開始。それと同時に、産地直送のギフト商品開発に向け、パッケージデザインの制作に取り掛かった。
同じころ、淳さんと久米原さんは石部さんの案内で初めて早朝の東京・大田市場を訪れた。さまざまな種類の果物や包装・輸送資材が一堂にそろい、商品開発の参考になっただけではない。仲卸やバイヤーが果物を手に、1つひとつ商品を吟味していく市場の熱気に圧倒されたという。
「今までは、いいものを安く届けるという流通システムの中で商品を卸し、その先のことはあまり気にしていませんでした。でも、大田市場の選別の現場を見て、その後、銀座千疋屋さんのパティスリーや、スイーツを作っている本社工場も案内してもらって見方が変わった。これまでとは真逆の、値が高くてもいいものを届け、広めていく、そんな市場があるんだということに、改めて気付かされました」(淳さん)
農家の収入も約1.5倍に
銀座千疋屋との取引がもたらしたインパクトは、五十嵐さん親子の想像をはるかに超えていた。小売業界に「あまりん」の品質のよさが一気に知られるようになり、問い合わせが相次いだ。
それまで生協のみだった出荷先は、食材を全国宅配するオイシックス、農協、大手スーパーへと急拡大。2018年に0.6ヘクタールからスタートした栽培面積は、その後2〜3ヘクタールに増え、来年は産直センター全体で5.8ヘクタール程度を見込む。
とちおとめを栽培していたときには3億円に届かなかった苺部会の売上高も、今シーズンは4億4千万円になり、1農家当たりの収入も約1.5倍になったという。最初の一歩を踏み出した五十嵐さん親子と久米原さんの後に続き、「あまりん」を増やす農家が増え、新規の就農希望者も現れた。
「とちおとめのときは、量を取ることが目標になっていましたが、あまりんになってから、味と見た目もかなり重要だと考えるようになりました。温度の管理や収穫の際にいちごが汚れない、傷つかないよう工夫を凝らしたり。気を配ることが増えて大変ですが、売る先が広がりました。やりがいはかなりあります」と淳さんは言う。
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