「埼玉限定のいちご」が高級市場に乗り出した背景 フルーツ生産者を育成するコーチの技【中編】
「産直センターを通して生協に少し出してみたけど、収穫量が少なく、単価を設定すると高くなった。普通の2段詰めでその割に値段が高い。お客さんから『もう買わない』という意見もあって、初めて東京の中心で売られている“日本一のいちご”を調べてみようと考えました」(淳さん)
銀座三越、銀座千疋屋など、思いつくままに、高級フルーツ店に入り、片っ端からさまざまな種類のいちごを買い集めた。
「うちで採れた新しい品種のいちごなんですけど、試しに食べてみていただけないでしょうか」
店頭で持ってきた「あまりん」を差し出した中で、即座に受け取ってくれたのが銀座千疋屋だった。
「今、ちょうど仕入長がおりますのでお待ちください」
そのまま応接室へ通され、そこで2人は石部さんと対面した。
「美味しいですね、どうやって作っているの、どういうふうに売りたいの、って聞かれたのですが、うちは全然そういうのも考えきれていない。収穫量も少なくて単価を高くしないと合わないんだけど、そのノウハウを持っていないので勉強しているところですと伝えた。それじゃ、近いうちにそちらに行くからということになって」(淳さん)
産直センター初のギフト市場開拓へ
本当に来てくれるのだろうか。そう思っているうちに、2週間ほどで石部さんが本庄市内にある農園を訪ねてきた。
「果物の質のよさは当然ですが、やる気があるところ、やってみたいと自ら動くところとは、どんどんつながる」
石部さんがそう言うように、その日から、産直センター初のギフト市場開拓へと、物事が一気に動き出した。
野菜や果物の200軒の生産者でつくる「埼玉産直センター」は、微生物研究に基づく発酵技術を生かした土づくりに定評がある。大量生産を前提に、日本の農業が安くて効率のよい化学肥料や化学合成農薬を盛んに使うようになる中、その流れに疑問を持つ生産者たちが微生物農法を学び、土の生態系を整えて「健康な作物」を作ろうと結束して発展してきた。
「長年、化学肥料を使わず、減農薬の栽培に取り組んできましたが、当初は環境に対する世の中の意識はあまりなくて。50年前に始めた人たちは、よそから見れば変わり者と言われて苦労しました。ようやく時代が追いついてきた感じです」(貞良さん)
そんなこだわりの土で育つ「あまりん」の味のバランスのよさは、石部さんの舌にも目にも、明らかだった。
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