ここ約半年、IT教育に関する取材を続ける中で、「IT」と聞いただけで嫌悪感を示す教師がいるという話を何度か聞いた。ITが現場に入ることでさらに仕事が増えるのではという不安感があるのだ。
授業にITを使うことに成功している学校は、授業以外の業務にITを導入することによって教師の負担を軽減し、そこで教師たちにIT導入への理解を得ているところが多いようだ。
個人の成果を重視するスウェーデンとは対照的
さらに国としての戦略を知るため、筆者は、2014年に欧州の中でベストCIOに選出された、エストニア政府CIO(Chief Information Officer、最高情報責任者)であるTaavi Kotka氏の元を訪れた。所属は日本の経済産業省と総務省を合わせたようなMinistry of Economic Affairs and Communications。全省庁がおのおので管轄するIT予算の振り分けを行っている。
何より驚いたのは、彼の35歳という年齢だ。彼にそのことを言ったら、「首相は34歳だよ」と言われ、ITを積極的に進めるうえで若さというのは大きな要素になっているのかもしれないと感じた。ちなみに、大統領は60代なので、そこでバランスはとっているようだ。
質問したのに質問返しされてしまった。とかく、教育では数値が成果のKPIとして提示されることが多いが、エストニアではそれは求められていない。小国なので、国としてどのように生き残って行くかを考えた場合、国全体でどのような新しいものが生み出されるかに着目しているのだろう。
一方で、近隣国のスウェーデンは個人の成果を重視している。スウェーデンでは教育におけるITはまだ局地的な普及だが、最も進んでいるソレントナ市の教員に会う機会があり、話を伺った。同市では2009年に政治家が1人1台のタブレットを持つことを決定し、その際にきちんと成果を出すことが求められたそうだ。2014年に国内の学力テストが行われたときには、同市は国内で4番目の結果を収め、ITの導入による学力向上が裏付けられたとのことだ。
エストニアは教育以外にも、国民IDカードなど、ITを用いた政策が盛んだ。出生とともに発行され、保険証、銀行カード、免許証、電子投票などそのカードひとつでほぼ何でもできてしまう。若い人たちを中心にカードさえ所持せず、その情報をスマホに入れて持ち歩いている人も多いという。
日本でもマイナンバー制度が近々開始される中で、教育分野と合わせて参考にできることが多そうだ。
エストニアは日本とは比べものにならないほど、ITが生活の隅々に行き渡っている。国のサイズの違いなどもあり、それをすべて日本に応用することは難しいだろうが、IT先進国と呼ばれるエストニアから学ぶことは多い。教育でITを利用することが目的になっていないか、なぜITを利用するのか、そのような議論がもっと日本にあってもいいように思う。
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