映画「バービー」に激怒する男性に欠けている視点 フェミニズムなメッセージの解釈で物議

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マーはXへの投稿の中で、昨年「Fortune 500」の企業の役員の45%は女性だったと指摘するが、欧米の一流企業ではそうかもしれなくても、日本を含め、まだ圧倒的に企業は男社会だと感じている人たちは世界に多い。広い視野で見ると、それが「私たちが生きる時代」の現実なのである。

この映画は決して男性を見下すものではない。むしろ、映画の中で一番変化し、自己発見をしていくのは、ライアン・ゴズリングが演じるケンなのだ。映画の途中で悪役になるも葛藤を抱える彼を、フィルムメーカーは終始優しく見つめ続ける。

そして映画の最後で、女性の大統領は、バービーの世界を元のように女性だけが権力を持つようにすることができたのにもかかわらず、これからは男性にも参加してもらおうと決める。そこに至るまでにも、ロビー演じるバービーが、下流国民のように扱われるのはどういう気持ちなのかに気づくシーンがある。

決して男性を貶す映画ではない

つまり、『バービー』は、男性を貶して喜ぶとか、シャピロがいうような男性と女性は無視し合うべきだという映画ではなく、お互いに思いやりをもち、両方が参加できる社会を作っていこうとうたうものなのである。少なくとも筆者はそう受け止めた。それを、ピンクだらけのポップな舞台で、ユーモアたっぷりにやるのだ。

とはいえ、どんな映画でも、気に入る人もいれば気に入らない人もいるもの。それもまた、私たちが生きる社会の現実として、受け入れるべきだろう。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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