記憶喪失と夫の突然死を背負った絵描きの短い命 膨大な遺品整理、死と隣り合わせだった暮らしとは

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すべて廃棄したり売却したりするのなら話が早いが、コンテンツ文化史として貴重な資料が含まれるし、なにより正高さんが愛情を注いだコレクションをむやみに処分するのは胸が痛む。夫婦で楽しんだ思い出もある。後悔しないように少しずつでも分類していって、残すべきものを選別していこう。

イラストに育児、家事。こささんの仕事に正高さんコレクションの整理が加わった。

この途方もない作業をマンガにしよう。そう心に決めてTwitter(現X)で発表するようになったのは5月下旬からだ。

<ものすごく迷ったんですが、今日から夫が亡くなった漫画をアップしていきます。彼は私の描いた物が好きだった事と、自分が載っているものが好きだった事と、おそらく生きていたら「描いてよ!」と言いそうだからです。そういう人でした。子育ての隙間を縫って描くのでクオリティは低めです。>
(2018年5月20日/こさささこ@kosasasako/X(Twitter)より)

夫の死と自分の死

ある日突然オタクの夫が亡くなったら? 身近な人が亡くなった時にやるべきこと、起こること
『ある日突然オタクの夫が亡くなったら? 身近な人が亡くなった時にやるべきこと、起こること』(KADOKAWA)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

この連作マンガをまとめたものが『ある日突然オタクの夫が亡くなったら?』だ。葬儀や遺品整理、相続などの手続きについて専門家の監修をつけて2018年12月にKADOKAWAから刊行した。

コレクションはそのまま保存するものと捨てるもの、売却するもの、寄贈するものの4種類に分けると方針を決めた。しかし、一見ただの雑誌の付録に見えて希少価値がついているものや、江戸時代の春歌を収録したフォノシートと春画カードのセットのように誰に価値を尋ねればいいのかわからないものが大量にある。

娘の誕生日会を自宅で開くために2019年12月までの完了を目指したが、どうにもゴールが見えてこない。それでも休日に姉夫婦や兄が手伝いに来てくれて、少しずつだが片付けが進んでいく実感は確かにある。

<正直言うと、日によって鬱々とした気分になったりしてたんだけど、目の前から夫の物が日々物理的に減ってきたら気持ちが少しずつ晴れてきた。もっと減ったらきっともっと晴れるだろう。最終的に図書館へ送ったらさらに晴れるだろう。いくぜ!やるぜ!あとどれくらいかかるかわからないけど…>
(2019年10月29日/こさささこ@kosasasako/X(Twitter)より)
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