記憶喪失と夫の突然死を背負った絵描きの短い命 膨大な遺品整理、死と隣り合わせだった暮らしとは

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訃報を伝えたのはこささんの姉である塚口綾子さんだ。こささんのTwitter(現X)にはログインできなかったため、自身のアカウントに連投して報せる。葬儀はすでに親族のみで行ったこと、娘と息子を親族で引き取り、遺品整理も引き継ぐことなどが書かれていた。

<いま、彼女がKADOKAWAさんから出版していただいた『ある日突然オタクの夫が亡くなったら?』のページをめくりながら、ひとつひとつ進んでおります。
生前の彼女が書籍中でも気にしていた2人の子どもたちとの時間を大切に過ごしていければと思っております。>
(2021年12月19日/塚口綾子@tsukaguchi/X(Twitter)より)

娘と息子の生活拠点は東京に移った。塚口さんたち親族は休暇などを使って山形の吉田家に出向き、遺品の整理を続けている。

塚口さんのnote。吉田家の整理の様子を不定期でレポートしている
ネットで故人の声を聴け 死にゆく人々の本音 (光文社新書)
『ネットで故人の声を聴け 死にゆく人々の本音』(光文社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

吉田家には正高さんの遺品とこささんの遺品が残されている。こささんの制作物は将来子供たちが判断できるようにできるかぎり残していくつもりだ。正高さんのものも子供に委ねるものはそのままにしたいが、そのための振り分けがまだ完了していない。塚口さんはこう語る。

「山形に置いておくと整理が進まないので、最低限“処分するもの”をこの夏に確定させ、残りは東京に場所を借りて移動させたいなと考えています」

前述のとおり、一括廃棄ならすぐに終わる。故人が残していったものにこれだけ多くの人が心血を注ぎ、時間をかけているのは、故人が残したものを尊重し、故人とのつながりを大切にしたい思いが生きているからだろう。

正高さんとこささんが何を感じ、何を考えていたのか。今に残るXから触れられるものは少なくない。

#引用元と参考文献
吉田正高@yoshidamasataka/X(Twitter) https://twitter.com/yoshidamasataka
『ある日突然オタクの夫が亡くなったら? 身近な人が亡くなった時にやるべきこと、起こること』(こさささこ著、KADOKAWA)
こさささこ@kosasasako/X(Twitter) https://twitter.com/kosasasako
こさささこ@kosasasakoesu/X(Twitter) https://twitter.com/kosasasakoesu
おもパン(こさささこさんのブログ) http://omopan.blogspot.com/
コンテンツ文化史学会 http://www.contentshistory.org/
塚口綾子@tsukaguchi/X(Twitter) https://twitter.com/tsukaguchi
塚口綾子さんのnote https://note.com/tsukaguchi/
古田 雄介 フリーランスライター

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ふるた ゆうすけ / Yusuke Furuta

1977年生まれ。名古屋工業大学卒業後、建設会社と葬儀会社を経て2002年から雑誌記者に転職。2010年からデジタル遺品や故人のサイトの追跡している。著書に『第2版 デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた』(伊勢田篤史との共著/日本加除出版)、『ネットで故人の声を聴け』(光文社新書)、『故人サイト』(社会評論社)など。

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