記憶喪失と夫の突然死を背負った絵描きの短い命 膨大な遺品整理、死と隣り合わせだった暮らしとは

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葬儀の準備と関係者への連絡、必要最低限の行政手続きは大変だったものの姉兄の協力もあって何とか済んだ。

しかし、その後には財産と遺品の整理の問題が待ち構えていた。お墓の問題もある。正高さんの両親はすでに亡くなっていて、あちらの実家に残る財産的なものも片付けなければならない。大学の研究室も撤退しなければならないだろう。ほかにもまだ気づいていないやるべきことがあるかもしれない――。

持病もない仕事盛りの40代で、自らの死の備えをしている人はそうはいない。それでいて稀代の趣味人ゆえに、自宅にも職場にも膨大なコレクションが蓄えられている。遺品整理のなかでも相当に手強い部類に入る。

4月の終わり、こささんの心の叫びが残されている。

<吉田の追悼ツイートありがとうございました。私への労りのお言葉もありがとうございます。ただいま滅法忙しく、泣きたいほど忙しく、泣けないほどです。でもたまには泣いてます。>
<健康だったはずの同居している夫(オタク)が突然死ぬと、どれだけ大変か、いかに準備していなかったか、何を準備すればいいのか、そんなことをそのうちつらつらツイートしようかと思います。本当に大変です。とりあえず、遺影、マイナンバー、連絡網。死ぬ時この三つは重要です。>
(ともに2018年4月26日/こさささこ@kosasasako/X(Twitter)より)

夫の突然死とその後をマンガで

職場の片付けは姉兄や正高さんの同僚、学生の手伝いもあって5月のうちに終わらせることができた。行政の手続きや子育てを含む日々の苦難は、ご近所さんや行政の専門家が手を差し伸べてくれた。しかし、自宅には膨大なコレクションが眠っている。

自宅には正高さんの仕事部屋に加え、2つのコレクション部屋もある。合わせて20畳ほどの広さがあり、そこに天井近くまであるラックが何台も並び、それぞれの棚に書籍や雑誌やDVDやレコード、フィギュア、ゲームソフトなどがぎっしりとしきつめられている。全年齢のものから成人向けのものまであり、生前から子供の立ち入りは禁止していた。いまも大人しか整理することが許されない空間だ。

こさささこ
正高さんの仕事部屋(こささんのXより)
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