「台湾有事議論」日本で抜け落ちている大事な視点 沖縄県民の避難や難民受け入れの議論がない

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――日米地位協定では在日米軍は日本の民間空港と港湾を利用できるとされています。

その通りで、しかも民間機、民間船よりも優先的に利用可能と明記されている。だが、現実として米軍は自治体の意向を尊重せざるをえず、自治体や地元住民が反対すれば米軍も使えない場合もある。

法律上は米軍行動円滑化法などの米軍等行動関連措置法があり、自衛隊の特定公共施設利用法とセットで有事では民間空港と港湾を国の管理下で自衛隊と米軍が優先的に利用できると定めている。

ところが、これらは一部の状況を除き武力攻撃予測事態と武力攻撃事態にならないと使えない。自衛隊や米軍は、重要影響事態や存立危機事態では自治体の協力のもとで民間空港や港湾を使用することになる。

沖縄県のように平和運動の影響力が大変強いところで、軍事作戦に協力しないと自治体が決めたり、自治体が賛成しても住民が座り込みなど実力行使をしたりしたときにどう対応するのか。現在の台湾有事の議論はこのような視点がすっぽり抜けている。

「かっこいい」ことを言うのは構わないが、現在の状態で本当に台湾有事において在日米軍も自衛隊も住民を円滑に避難させながら戦えるか、自治体の協力を得て軍事作戦を展開できるか。

地理的に台湾と近く、国土が戦場になる日本はアメリカのシンクタンクと同じように軍事シミュレーションの話だけをしてはダメだ。難民の受け入れはどうするのか、住民が巻き込まれることにどう対応するのかなど地に足のついた議論こそ必要だ。

劉 彦甫 東洋経済 記者

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りゅう いぇんふ / Yenfu LIU

解説部記者。台湾・中台関係を中心に国際政治やマクロ経済が専門。台湾台北市生まれの客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。日本の台湾認識・言説の研究者でもある。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。ピアノや旅行、アニメが好き。

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